第4章 実行|売る
売る前の相続登記:しないと売れない理由・期限・名義の決め方
相続登記をしないと、亡くなった方の名義のままで買主へ登記できず、売れません。相続登記は取得を知った日から3年以内が義務で、怠ると10万円以下の過料です。
- 売るには、先に相続登記で名義を相続人に移す必要があります。売買の登記は、売主が登記名義人として申請するためです(不動産登記法60条)。相続人申告登記だけでは売れません。
- 相続登記は、相続で取得したことを知った日から3年以内です。2024年(令和6年)4月1日より前の相続は、2027年(令和9年)3月31日までです。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料です。
- 名義は、法定相続分の共有、遺産分割による共有、単独、換価分割の代表者のどれかです。登録免許税は固定資産税評価額の0.4%です。あなたのケースは期限カレンダーで確かめてください。
相続登記をしないと、なぜ売れないのですか?
相続登記をしないと売れない理由は、買主への所有権移転の登記を、登記名義人である売主が申請する必要があるためです。名義が亡くなった方のままだと、登記を申請できる人がいません。
売買による所有権移転の登記の申請は、登記権利者(買主)と登記義務者(売主)が共同でします(不動産登記法60条)。登記義務者とは、権利に関する登記をすることで、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人をいいます(同法2条13号)。名義が亡くなった方のままでは、売主が登記名義人ではありません。
| 状態 | 売れるか | 理由 |
|---|---|---|
| 名義が亡くなった方のまま | 売れない | 登記名義人が売主として申請できず、買主へ登記できない |
| 相続人申告登記だけをした | 売れない | 申告登記は権利関係を公示しない。売却や担保設定には相続登記が別に必要(法務省) |
| 相続登記を済ませた | 売れる | 売主が登記名義人として申請できる。共有なら全員の同意が原則 |
売買契約の締結と相続登記の順番は、不動産会社や司法書士の実務によります。買主への登記までに、売主の名義が整っている必要があります。契約を登記より先に結べるかは、法令上の定めを公表資料では確認できていません。不動産会社・司法書士に確認してください。
相続登記の全体の位置づけは、最初にやることで扱っています。
相続登記の期限はいつまでで、過料はいくらですか?
相続登記は、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内が期限です。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法76条の2・164条)。
相続登記の申請義務は、2024年(令和6年)4月1日に始まりました。
| 場面 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相続(遺言による相続人への遺贈を含む)で所有権を取得した | 取得を知った日から3年以内 | 不動産登記法76条の2第1項 |
| 法定相続分で登記をしたあとに遺産分割があり、法定相続分を超えて取得した | 遺産分割の日から3年以内 | 同条2項 |
| 2024年(令和6年)4月1日より前に相続し、未登記 | 2027年(令和9年)3月31日まで | 法務省 |
| 相続人申告登記をしたあとに遺産分割で取得した | 遺産分割の日から3年以内 | 同法76条の3第4項 |
| 期限までに正当な理由なく登記しなかった | 10万円以下の過料 | 同法164条1項 |
根拠:不動産登記法(e-Gov法令検索)、法務省「相続登記の申請義務化について」(2026年10月17日確認)。
登記官が義務違反を把握すると、まず催告書が送られ、期限内に登記がされないと裁判所へ通知されます(法務省)。過料の額は、裁判所が10万円以下の範囲で決めます。
法務省は、次のような事情があれば、一般に正当な理由があるとしています。
- 相続人が極めて多数で、戸籍の収集などに多くの時間がかかる。
- 遺言の有効性や遺産の範囲が争われている。
- 義務を負う人に重病その他これに準ずる事情がある。
- DV被害者など、避難を余儀なくされている。
- 経済的に困窮し、登記の費用を負担できない。
売る予定があっても、義務は同じです。売るには相続登記が前提なので、売却を進めること自体が、期限を満たす道にもなります。売却の期限は、3,000万円控除の期限(相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ2027年12月31日まで)と合わせて確かめます(3,000万円控除)。期限の自動計算は期限カレンダーで行えます。
誰の名義にして売りますか?単独・共有・換価分割の代表者で何が変わりますか?
名義は、法定相続分の共有、遺産分割による共有、単独、換価分割の代表者のどれかです。名義によって、売るときに必要な人数、手続き、税金の考え方が変わります。
| 名義の決め方 | 決め方 | 売るときの手続き | 税金・注意 |
|---|---|---|---|
| 法定相続分の共有 | 協議なしで、相続人の1人から申請できる。申請人にならない人には、登記識別情報は通知されない | 共有物の全体を売るには、共有者全員の同意が原則(民法251条) | 協議がまとまらないうちの登記。持分だけ売る道は共有名義の記事 |
| 遺産分割による共有(取得割合) | 遺産分割協議書に、相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添える | 全員が売主になり、契約や決済で全員の署名押印が要る | 控除の人数が増える(相続人が3人以上は1人2,000万円) |
| 遺産分割による単独名義 | 協議で1人が取得する(代償分割など) | 取得者1人が売る。手続きが簡単 | 控除は1人分(上限3,000万円)。他の相続人への代償金の手当てが別に要る |
| 換価分割の代表者名義 | 協議書に、換価のために売ること、代表者、分配の割合を書く | 代表者が売り、代金を協議書の割合で分配 | 贈与税や控除の扱いに確認点がある(換価分割の記事) |
| 相続人申告登記のみ | 戸籍などを添えて、相続人であることを申し出る | 売れない | 相続登記の代わりにはならない |
根拠:法務局の相続登記ガイドブック、国税庁の質疑応答事例(換価分割と贈与税)、国税庁 No.3306(2026年10月17日確認)。
名義の決め方は、売りやすさ、手続きの手間、税金の3点で比べます。全員が売ることに賛成なら、共有で全員が売主になる方法と、代表者名義の換価分割があります。意見が割れている、または誰かが住み続けたいなら、単独名義と代償分割も選択肢です。
共有名義のままにすると、共有者が亡くなったときに、その持分が相続され、共有者が増えていきます(民法896条)。売るかどうかが決まっていない場合は、期限を満たす方法と売りやすさのバランスを、司法書士や税理士に確認してください。
売れそうにない土地や空き家の場合は、名義の前に、売れないときの対処で出口を確かめます。
相続登記の登録免許税はいくらですか?
相続による所有権の移転の登録免許税は、不動産の価額の1,000分の4(0.4%)です。不動産の価額は、固定資産課税台帳に登録された価格があれば、原則としてその価格です(国税庁 No.7191)。
売買による土地の登記は1,000分の20(2029年(令和11年)3月31日までの登記は1,000分の15)で、相続の税率は売買の5分の1です。
土地は、不動産の価額が100万円以下であれば、免税になります。相続による所有権移転登記の期限は、2027年(令和9年)3月31日までです(法務局、2026年10月17日確認)。免税を受けるには、申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第2項により非課税」と書く必要があります。持分を取得する場合は、不動産全体の価額に持分の割合を掛けて計算します(法務局)。
モデルケース(見本の数字)。実在の事例ではありません。
条件:価額は固定資産課税台帳の価格。免税は土地のみで、期間内の申請。
| 例 | 土地の価額 | 建物の価額 | 登録免許税 |
|---|---|---|---|
| A. 土地のみ | 90万円 | なし | 0円(免税) |
| B. 土地と建物 | 600万円 | 200万円 | 3.2万円(800万円×0.4%) |
| C. 土地と建物 | 1,800万円 | 700万円 | 10.0万円(2,500万円×0.4%) |
| D. 土地が100万円以下で建物あり | 90万円 | 200万円 | 0.8万円(建物分のみ。土地は免税) |
名義を共有にしても単独にしても、不動産全体にかかる登録免許税の総額は、同じ考え方で計算します。司法書士報酬や戸籍の取得費用は、含めていません。司法書士報酬は公的な目安が公表されておらず、事務所ごとに異なるため、見積りで確認します。
申請書類の細部や書き方、片付けが必要な場合の進め方は、姉妹サイトのふれあいの丘(運営:株式会社Kogera)が扱っています。
相続人申告登記は、相続登記と何が違いますか?
相続人申告登記は、相続人であることを登記官に申し出て、3年以内の義務を果たす簡易な制度です。権利関係を公示しないため、売却や担保設定には使えません(法務省)。
| 項目 | 相続登記 | 相続人申告登記 |
|---|---|---|
| できる人 | 相続で取得した人 | 特定の相続人が単独で申し出られる(押印・電子署名は不要) |
| 登記に反映される内容 | 権利関係(誰がどれだけ持つか) | 申出人の氏名・住所が付記されるが、権利関係は反映されない |
| 売却・担保設定 | できる | できない |
| 書類 | 戸籍、住民票、協議書など | 戸籍の証明書など。法定相続人の範囲や法定相続分の確定は不要 |
| 登録免許税 | 不動産の価額の0.4% | かからない |
| 遺産分割のあと | — | 分割の日から3年以内に、通常の相続登記が別に必要 |
| 義務の履行 | 申請した相続人の義務を履行 | 申出をした相続人についてのみ、義務を履行したものとみなす |
根拠:法務省「相続人申告登記について」(令和8年3月24日更新)、不動産登記法76条の3(2026年10月17日確認)。
遺産分割がまとまらず、期限が近いときは、相続人申告登記で期限の義務を先に満たす方法があります。ただし、売るには、遺産分割に基づく相続登記が別に必要です。
売る前に、何を、どの順番で進めますか?
相続人と遺産を確認し、名義の決め方を決め、相続登記をしてから、査定と媒介契約に進みます。売却の期限と相続登記の期限を並べて確かめます。
| 順 | やること | 詳しい記事 |
|---|---|---|
| 1 | 戸籍で相続人を確認し、売るかどうかを話し合う | 最初にやること |
| 2 | 名義を決める(共有・単独・換価分割の代表者) | 本記事、換価分割 |
| 3 | 遺産分割協議書を作り、相続登記を申請する | 本記事 |
| 4 | 査定・媒介契約・売買契約・決済 | 売る流れと費用 |
| 5 | 売った翌年に確定申告 | 3,000万円控除 |
次のようなケースは、順番に注意します。
- 売るかどうかが決まっていない場合:期限を満たすために相続人申告登記をする方法はあります。売ると決めたら、相続登記を別にします。
- 相続人の意見が割れている場合:持分だけを売る方法は共有名義の記事で扱っています。
- 3,000万円控除を使う場合:判定ツールで要件と期限を確かめます。
名義と登記の手続きが整ったあとに、複数社の査定額を比べます。この方法が向かない人もいます。相続人の間で売るかどうかが決まっていない人、名義を整えないまま査定だけを急ぎたい人は、先に相続人の合意と登記の準備を進めます。
売る方向で、複数の不動産会社の査定を比べたい人向けに、無料の一括問い合わせ窓口があります。提携先の条件はサービスごとに異なるため、申込み前に各社の案内を読んでください。
この記事で使える計算ツール
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よくある質問
相続登記をしないと、売れませんか?
売れません。名義が亡くなった方のままでは、売主が登記名義人として買主への登記を申請できません。相続人申告登記だけでも売れません。
相続登記の義務化はいつからで、売る予定でも必要ですか?
2024年(令和6年)4月1日からです。相続で取得したことを知った日から3年以内で、売る予定でも義務は同じです。施行前の相続は2027年(令和9年)3月31日までです。
相続登記をしないと、過料はいくらですか?
正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料です。法務局からの催告に応じないと、裁判所へ通知されます。
相続登記の費用はいくらですか?
登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%です。100万円以下の土地は、2027年3月31日までの申請なら免税です。司法書士に頼むと、別に報酬がかかります。
誰の名義にして売るのがよいですか?
手続きが簡単なのは単独名義と換価分割の代表者名義、全員の関与が要るのは共有です。税金の扱いも変わるため、売る前に税理士・司法書士へ確認してください。
この記事の根拠
- 不動産登記法(e-Gov法令検索)2条13号 登記義務者、60条 共同申請、76条の2 相続等による所有権の移転の登記、76条の3 相続人である旨の申出等、164条 過料(確認日 )
- 法務省 相続登記の申請義務化について(更新日 令和7年3月27日)(確認日 )
- 法務省 相続人申告登記について(更新日 令和8年3月24日)(確認日 )
- 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表(相続による土地・建物の所有権移転は1,000分の4。令和8年4月1日現在法令等)(確認日 )
- 法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」(100万円以下の土地。令和9年3月31日まで。2026年4月1日更新)(確認日 )
- 法務局 相続登記ガイドブック「法定の割合による相続」(相続人の1人から申請できる。申請人にならない人には登記識別情報が通知されない)(確認日 )
- 法務局「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」令和6年9月版(協議書に実印と印鑑証明書)(確認日 )
- 国税庁 質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」(令和7年8月1日現在)(確認日 )
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(相続人3人以上は1人2,000万円)(確認日 )
最終更新:2026年10月17日。制度の数字は2026年10月時点の公表情報です。
- 不動産登記法2条13号・60条・76条の2・76条の3・164条(e-Gov法令検索、2026年10月17日確認)
- 法務省「相続登記の申請義務化について」(令和7年3月27日更新)、同「相続人申告登記について」(令和8年3月24日更新)(2026年10月17日確認)
- 国税庁 No.7191・No.3306(令和8年4月1日現在法令等)、同 質疑応答事例(令和7年8月1日現在)(2026年10月17日確認)
- 法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」、同 相続登記ガイドブック「法定の割合による相続」、同「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」令和6年9月版(2026年10月17日確認)
- 民法896条(e-Gov法令検索、2026年10月17日確認)、民法251条(既存記事 /kaitori/kyoyu-mochibun/ の根拠に準拠)
この記事は一般的な情報です。登記の手続きは法務局・司法書士に、税金は税理士・税務署にご確認ください。