第4章 実行|売る

住宅ローン(抵当権)が残る親の家を売る:相続人が確かめる順番

住宅ローンが残る親の家も、相続人が売れます。残債・団体信用生命保険・登記事項証明書の乙区の順に確かめ、決済で完済して抵当権を抹消するのが通常の流れです。

  • 住宅ローンの抵当権が付いた親の家も、名義を直せば売れます。多くは決済で残りのローンを返し、同じ日に抵当権を抹消します。
  • 先に、残債の額、団体信用生命保険の有無、登記事項証明書の乙区の記録を確かめます。完済済みでも、登記だけ残っていることがあります。
  • 売却代金で残りのローンを返せないときは、相続放棄や限定承認も含めて、弁護士・司法書士に相談します。

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住宅ローンが残る親の家は、相続人が売れますか?

住宅ローンが残る家も、名義を相続した相続人が売れます。ただし、買主へは登記された権利の種類と内容が説明される(宅地建物取引業法35条1項1号)ため、通常は引渡しまでに完済して抹消します。

抵当権とは、債務の担保として不動産に付ける権利で、債権者が他の債権者より先に弁済を受けられます(民法369条)。相続人は、亡くなった方の権利と義務を引き継ぎます(民法896条)。住宅ローンの返済義務も、団体信用生命保険で消えない限り、相続の対象です。

売る前に、どの順番で何を確かめますか?

売る前の確認は、残債、団体信用生命保険、登記、名義、売却価格の見込みの順です。上から進めると、完済の方法と、相続放棄などの検討が必要かが分かります。

住宅ローンが残る親の家を売る前の確認の順番
順 確かめること 資料・取得先 結果で変わること
1 ローンの残高、返済の状況、連帯債務者・保証人の有無 返済予定表・残高の分かる書類(金融機関) 売却代金で返せるかの比較の基準になる
2 団体信用生命保険に入っていたか。完済の対象になるか 契約書類・金融機関への問い合わせ 完済の対象なら、売却前にローンが消える場合がある
3 乙区に、どの抵当権が、いくらで残っているか 登記事項証明書(法務局) 抹消が要る権利の種類と数が分かる
4 名義が亡くなった親のままか。住所のつながりは合うか 登記事項証明書の甲区 相続登記が先になる(売る前の相続登記)
5 売れそうな価格と、売るときの費用 複数社の査定(査定の比較表) 残債との大小で、完済の方法が分かれる
6 完済の日と、抹消の書類の取り寄せ方。返せないときは専門家へ 金融機関、弁護士・司法書士 決済日までの段取りと、相続放棄などの検討が決まる

相続放棄と限定承認には、相続の開始を知った時から3か月以内の期限があります(民法915条1項)。ローンの有無は、この期限の内に調べます。他の期限は空き家を相続したら最初にやることにあります。

登記事項証明書の乙区は、どう読みますか?

乙区とは、登記事項証明書の権利部のうち、所有権以外の権利を記録する欄です(不動産登記規則4条4項)。住宅ローンの抵当権は、ここに載ります。所有権の記録は甲区です。

登記事項証明書は、誰でも手数料を納めて請求できます(不動産登記法119条)。過去の記録を含む全部事項証明書と、現に効力を有する部分だけの現在事項証明書があります(不動産登記規則196条)。

乙区の抵当権の記録で確かめる項目
項目 見方 根拠
登記の目的 「抵当権設定」か「根抵当権設定」か 不動産登記法59条1号
債権額 登記された債権の額。今の残高とは限らない 同法83条1項1号
債務者・抵当権者 借りた人(亡くなった親か、他の人か)と、金融機関などの名称 同法83条1項2号・59条4号
抹消された権利 現に効力のある権利は、現在事項証明書で見る 不動産登記規則196条

根抵当権は、決まった範囲の取引で生じる不特定の債権を、極度額まで担保する権利です(民法398条の2)。「根抵当権」と書かれていたら、手続が異なるため、金融機関と司法書士に確認します。

団体信用生命保険で、残りの住宅ローンはなくなりますか?

団体信用生命保険に加入し、保険金が支払われると、残りの住宅ローンが完済になる場合があります。加入の有無と対象かどうかは、金融機関・契約で違います。亡くなった親の契約は、借入先の金融機関に問い合わせて確かめます。

住宅金融支援機構の機構団信(フラット35)の案内では、加入者が亡くなると、残りの住宅ローンは全額弁済されるとされています。弁済されない場合の例は、保障開始日から1年以内の自殺、告知書に事実を告げなかったことによる契約の解除、保障開始日前の傷病が原因の場合です(住宅金融支援機構)。

手続は、借入先の金融機関へ連絡するところから始まります。団信弁済届と、死亡証明書または死亡診断書などを出し、生命保険会社が審査します。保険金が支払われると、機構等の残債務は全額完済になります(住宅金融支援機構)。

完済になったあとも、抵当権の登記は自動では消えません。次の節の抹消の登記が要ります。

完済済みなのに抵当権が残っているときは、どうしますか?

住宅ローンを完済しても、抵当権の登記は自動では消えず、抹消の登記を申請します。法務省民事局の案内は、完済した方が抹消の登記を申請する手続を示しています。亡くなった親が完済済みでも、乙区に記録が残っていないかを確かめます。

抹消の登記は、登記権利者(所有者)と登記義務者(抵当権者)が共同で申請するのが原則です(不動産登記法60条)。法務省民事局の案内では、次の書類が金融機関から送られます。

抵当権の抹消の登記で、金融機関から受け取る書類と費用(法務省民事局の案内)
項目 内容
登記識別情報(または登記済証) 抵当権者の金融機関から送付される
登記原因証明情報 「解除証書」「弁済証書」などの書類。金融機関から送付される
委任状(代理権限証明情報) 金融機関から送付される。日付などの記載漏れを確かめる
登録免許税 不動産1個(土地または建物)につき1,000円。土地と建物で2,000円

案内は、書類を紛失・汚損せず、できるだけ早く法務局に申請することを勧めています。事案によっては別の登記が先に必要になるなど手続が複雑になるため、司法書士・弁護士への相談も案内しています。

所有者の名義が亡くなった親のままのときは、法務局の案内で、先に別の登記が必要とされています。売るときは名義を相続人に直す必要があるため、売る前の相続登記から進めます。

売却代金で完済して抵当権を抹消するときの流れは?

売却代金で完済して抹消するときは、決済の日に、売却代金から残債を返し、同じ日に抹消の登記を申請します。引渡しの前に、金融機関と司法書士で書類と金額を合わせます。

売却代金で完済し、抵当権を抹消する流れ
時期 すること
売買契約の前 残高と、完済の手続に要る日数を金融機関に確認する
売買契約の後 完済予定日を金融機関に伝え、抹消の書類の送付を依頼する
決済の当日 売却代金で完済し、抹消と所有権移転の登記を申請する(司法書士)
引渡し後 乙区から抵当権が消えたことを確かめる

細かい段取りは、引渡し前チェックリストにあります。必要書類は相続した家を売るときの必要書類一覧で確かめられます。

モデルケース(見本の数字)。実在の事例ではありません。

条件:親の家を、売却価格だけが違う3つの場合で売り、決済で完済する。残債は1,000万円と600万円と1,500万円の3通り。仲介手数料は通常の上限の速算式(売買価格400万円超は3%+6万円、税込)。登録免許税は土地と建物で2,000円。譲渡所得税・印紙税・司法書士の報酬は含めていません。

売却価格と残債の大小で、手元に残る額が変わる例(モデルケース:見本の数字)
項目 売却価格が残債より高い 売却価格と残債が同じ程度 売却価格が残債より低い
売却価格 18,000,000円 10,000,000円 8,000,000円
仲介手数料(税込) 660,000円 396,000円 330,000円
残債 6,000,000円 10,000,000円 15,000,000円
抹消の登録免許税 2,000円 2,000円 2,000円
手元に残る額(税引き前) 11,338,000円 △398,000円 △7,332,000円

計算の内訳は次のとおりです。

  • 仲介手数料:(売却価格×3%+6万円)×1.1。1,800万円は660,000円、1,000万円は396,000円、800万円は330,000円
  • 手元に残る額:売却価格-仲介手数料-残債-登録免許税。マイナスは、売却代金で足りず、別に用意する額

800万円以下の物件には仲介手数料の上限の特例があり、800万円なら同額です(国土交通省、仲介手数料の早見表)。税引き後の手取りは売却手取り計算、税金は相続した家を売るときの税金で確かめます。

売却代金で残りの住宅ローンを返せないときは、何を検討しますか?

売却代金で返せない残債は、相続人が引き継ぐのが原則で、相続放棄か限定承認を検討する場合があります。判断は期限があり、取り返しがつきにくいため、専門家に相談してから決めます。

残債を返せないときの、相続放棄と限定承認の要点
項目 相続放棄 限定承認
内容 初めから相続人でなかったとみなす(民法939条)。家も債務も引き継がない 相続で得た財産の限度でだけ、債務を弁済する(民法922条)
期限・申述先 相続の開始を知った時から3か月以内に、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所へ(民法915条1項、裁判所) 同左
手続する人 相続人ごと 共同相続人の全員が共同で(民法923条)

3か月で調べきれないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられます(民法915条1項ただし書)。

手続の詳細は、姉妹サイトのふれあいの丘(運営:株式会社Kogera)の相続手続きの記事で確かめられます。債権者との交渉や個別の返済の方法は、この記事では扱いません。弁護士・司法書士にご相談ください。

あなたのケースでは、どこから始めますか?

住宅ローンが残る親の家は、まず金融機関で残債と団体信用生命保険を確かめ、次に登記事項証明書で乙区と名義を確かめます。その結果で、売る進め方が決まります。

状況ごとの、最初の一歩
あなたの状況 最初の一歩
ローンがあるか分からない 登記事項証明書の乙区を取り、金融機関に問い合わせる
団体信用生命保険に入っていたかも 金融機関に、死亡による弁済の対象かを確かめる
完済済みのはずだが乙区に記録が残る 金融機関から抹消の書類を取り寄せ、司法書士に相談する
名義が親のまま 相続登記から進める(売る前の相続登記)
売却価格が残債に足りない 弁護士・司法書士に、相続放棄・限定承認を含めて相談する
売れるか分からない 売れないときの対処の順番で確かめる

親の家を早めに手放したいが、仲介で買主を探す時間をかけにくい人には、空き家・中古戸建ての買取査定を申し込める窓口があります。買取の価格は、仲介の査定より低くなることがあります。仲介の査定と並べて比べてから決めてください。申込みでは、住宅ローンの抵当権が残っていることを伝えます。売るかどうか家族で決まっていない人、名義が整っていない人には向きません。申込み前に、各社の案内を読んでください。

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よくある質問

親の住宅ローンが残っている家は、相続したあと売れますか?

売れます。名義を相続人に直し、決済で残りのローンを返して抵当権を抹消するのが通常の流れです。残債は、売却代金で足りるかを先に比べます。

団体信用生命保険に入っていれば、ローンはなくなりますか?

加入していて保険金が支払われると、残債が完済になる場合があります。金融機関や契約で違うため、借入先に確かめます。完済後も、抵当権の抹消の登記は別に必要です。

住宅ローンを完済したのに、抵当権が登記簿に残っています。どうしますか?

抹消の登記を申請しないと、登記は残ります。金融機関から解除証書などを受け取り、登録免許税(不動産1個1,000円)を納めて申請します。

売却代金で住宅ローンを返せないときは、どうなりますか?

残債は、相続人が引き継ぐのが原則です。相続放棄や限定承認は、3か月以内に家庭裁判所へ申述します。判断の前に、弁護士・司法書士に相談します。

この記事の根拠

  1. 不動産登記法(e-Gov法令検索)12条・59条・60条・62条・70条4項・83条・119条(確認日 )
  2. 不動産登記規則(e-Gov法令検索)4条4項(権利部の甲区・乙区)・196条(登記事項証明書の種類)(確認日 )
  3. 民法(e-Gov法令検索)369条・398条の2・896条・915条・922条・923条・939条(確認日 )
  4. 宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)35条1項1号(登記された権利の種類・内容の説明)(確認日 )
  5. 法務省民事局「住宅ローンを完済した方へ(抵当権の登記の抹消手続のご案内)一戸建て編」(令和6年4月版)(確認日 )
  6. 法務局「住宅ローン等を完済した」(所有者の住所・氏名が登記と違うとき、所有者が亡くなったときは先に別の登記が必要)(確認日 )
  7. 法務局「不動産の所有者が亡くなった」(亡くなった方が登記名義人のときの相続登記)(確認日 )
  8. 住宅金融支援機構【フラット35】「債務弁済される場合、債務弁済されない場合」(機構団信)(確認日 )
  9. 住宅金融支援機構「諸変更・脱退時の手続」死亡時の債務弁済(保険金請求)手続(確認日 )
  10. 裁判所「相続の放棄の申述」(確認日 )
  11. 裁判所「相続の限定承認の申述」(確認日 )
  12. 国土交通省「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」(令和6年7月1日施行)(確認日 )

最終更新:2026年10月25日。制度の内容は2026年10月時点の法令と公表資料です。

  • 不動産登記法・同規則・民法・宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)
  • 法務省民事局の抵当権抹消の案内(令和6年4月版)、法務局の案内、住宅金融支援機構の機構団信の案内、裁判所の案内

この記事は一般的な情報です。個別の債務の扱いや登記の判断は、弁護士・司法書士にご確認ください。税額は税務署・税理士にご確認ください。