第4章 実行|売る
換価分割とは:実家を売って兄弟で分ける手順と税金
換価分割とは、相続した不動産を売り、その代金を相続人で分ける遺産分割の方法です。譲渡所得は、売った時点の代金の取得割合に応じて各相続人が申告します。
- 換価分割は、誰も実家に住まず、代償金を払える人もいないときに向く分け方です。売ることと分配の割合を、相続人全員の合意で決めます。
- 譲渡所得の税金は、売却の時点で代金の取得割合が決まっていれば、その割合で各相続人が申告します。3,000万円控除は相続人ごとに使え、3人以上は1人2,000万円までです。
- 代表者の名義で売る場合の贈与税や控除の扱いには、確認が必要な点があります。あなたのケースは診断と、税務署・税理士への確認で確かめてください。
換価分割とは何ですか?現物分割・代償分割・共有と、どう違いますか?
換価分割とは、遺産を売却して、その代金を相続人で分ける遺産分割の方法です。裁判所は、遺産の分け方を、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4つに分けて案内しています(広島家庭裁判所の手引き)。
| 分け方 | 内容 | 向くケース | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 遺産そのものを分ける(例:甲土地はAさん、乙土地はBさん) | 土地や建物が複数あり、分けて取得できる | 1つの家だけだと分けにくい |
| 代償分割 | 1人が取得し、他の相続人に代償金を払う | 実家に住み続ける人がいる | 払う人に資力が必要。取得を望む人がいなければ選べない |
| 換価分割 | 売却して、代金を分ける | 誰も取得を望まない、または代償金を払える人がいない | 全員の合意が前提。売れないと分けられない |
| 共有分割 | 複数の相続人が共有で取得する | 当面は売らず、持ち続けたい | 共有者は、いつでも共有物分割を求められる。解決を先送りにしやすい |
根拠:広島家庭裁判所「遺産分割調停の手引き」(2026年10月17日確認)。実際には、これらを組み合わせて分けることが多いとされています。
換価分割の売却方法は、調停では、当事者全員の合意があれば任意売却ができます。合意できないときは、審判で競売を命じる方法があります(同手引き)。民法も、協議が調わないときは、各相続人が家庭裁判所に分割を請求できるとしています(民法907条2項)。
換価分割は、どんな手順で進めますか?
換価分割は、相続人全員で売ることと分配の割合を決め、名義を整えてから売り、決済後に代金を分けます。売った翌年には、各相続人が確定申告をします。
| 順 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 相続人と遺産を確認する | 相続人全員の合意が前提 |
| 2 | 売ること、代表者、分配の割合を決める | 遺産分割は、共同相続人がいつでも協議でできる(民法907条1項) |
| 3 | 遺産分割協議書を作る | 次の章の事項を書く |
| 4 | 相続登記をする | 共有名義、または代表者の単独名義。登録免許税は不動産の価額の0.4% |
| 5 | 査定・媒介契約・売買契約 | 全員で契約するか、代表者が契約するかを決めておく |
| 6 | 決済・代金の分配 | 費用と税金を差し引き、協議書の割合で分ける |
| 7 | 売った翌年に各人が確定申告 | 2月16日〜3月15日が原則。確定申告の記事 |
売却の全体の流れと費用は売る流れと費用に、名義の決め方と登記の期限は売る前の相続登記にまとめています。
関係する期限は、相続登記が取得を知った日から3年以内(不動産登記法76条の2)、相続税の申告が10か月以内(相続税法27条)、3,000万円控除の売却が相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ2027年(令和9年)12月31日までです(2026年10月17日時点)。期限の自動計算は期限カレンダーで行えます。
遺産分割協議書には、何を書きますか?
換価分割の協議書には、売ること、売る不動産、代表者の権限、分配の割合と時期、費用の扱いを書きます。法務局は、協議書の作成についての相談には応じられないと案内しており、司法書士や弁護士などの専門家に確認します(法務局の案内)。
次の事項は、一般的に整理した要点です。国税庁や法務局が、換価分割の文例を示しているわけではありません。
| 書く事項 | 内容 |
|---|---|
| 換価分割であること | 取得して持ち続けるのではなく、売却して代金を分けるために売ると書く |
| 不動産の特定 | 所在、地番、家屋番号など、登記事項証明書のとおりに書く |
| 名義 | 全員の共有名義にするか、代表者の単独名義にするか |
| 代表者の権限 | 代表者名義にする場合に、売却、登記、売買契約、代金の受領をする権限を書く |
| 売却の条件 | 最低の売却価格、売却の期限、売れなかったときの扱い |
| 費用の扱い | 仲介手数料、登記費用、測量・解体費、税金を、売却代金のどこから払うか |
| 分配の割合と時期 | 各相続人の割合と、決済後いつまでに、どの方法で分けるか |
国税庁の質疑応答は、売却の時点で代金の取得割合が決まっているかで、申告の割合が変わるとしています(次の章)。協議書に分配の割合を書く意味は、ここにあります。
協議書には、相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添えます。これは相続登記の申請に必要です(法務局「登記申請手続のご案内」令和6年9月版)。
換価分割の税金は、誰がいくら申告しますか?
譲渡所得は、売却の時点で代金の取得割合が決まっていれば、その割合に応じて各相続人が申告します。決まっていなければ、法定相続分で申告します(国税庁の質疑応答事例、令和7年8月1日現在)。
| 売却の時点 | 申告の割合 |
|---|---|
| 代金の取得割合が決まっている(法定相続分どおり、または売却までに決めた割合) | その割合に応じて、各相続人が申告する |
| 決まっておらず、売却後に代金を分ける(審判による換価分割、代金も分割の対象にする合意など) | 売却時の所有割合(法定相続分)で申告する。ただし、申告期限までに代金を分け、相続人全員が取得割合で申告したときは、その申告が認められる |
| 上の場合で、申告期限までに代金を分けず、法定相続分で申告した | あとで代金を分けても、更正の請求はできない |
根拠:国税庁 質疑応答事例(2026年10月17日確認)。この事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答です。
税額の計算は、売却価格から取得費と譲渡費用を引いて譲渡所得を出し、長期なら20.315%を掛けます(所得税15%+復興特別所得税(所得税額の2.1%)+住民税5%)。取得費が分からないときは、売った金額の5%を概算取得費にできます。相続した家の取得日は、亡くなった方の取得日を引き継ぎます(国税庁 No.3202・3258)。
3,000万円控除は、相続人の人数でどう変わりますか?
空き家の3,000万円控除は、控除の要件を満たす相続人ごとに使えます。相続人が3人以上の場合は、令和6年(2024年)1月1日以後の売却で、1人あたり2,000万円までです(国税庁 No.3306)。
売却代金が1億円以下であることも要件で、他の相続人が売った分も合算して判定します。要件の全体は3,000万円控除の記事と判定ツールで確認できます。
モデルケース(見本の数字)。実在の事例ではありません。
条件:売却価格8,000万円。取得費は不明で概算取得費5%(400万円)。譲渡費用は仲介手数料の上限(8,000万円×3%+6万円=246万円、税込270.6万円)のみで、印紙税などは含めない。長期。取得する相続人の持分は均等。全員が控除の要件を満たし、全員が家屋と敷地を取得する。
譲渡所得は、8,000万円-400万円-270.6万円=7,329.4万円です。
| 家屋と敷地を取得する相続人 | 1人あたりの譲渡所得 | 1人あたりの控除上限 | 1人あたりの税額 | 税額の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 1人(全部を取得して売る) | 7,329.4万円 | 3,000万円 | 879.5万円 | 879.5万円 |
| 2人(2分の1ずつ) | 3,664.7万円 | 3,000万円 | 135.0万円 | 270.1万円 |
| 3人(3分の1ずつ) | 2,443.1万円 | 2,000万円 | 90.0万円 | 270.1万円 |
| 4人(4分の1ずつ) | 1,832.4万円 | 2,000万円 | 0円 | 0円 |
| 参考:控除が使えない場合 | — | — | — | 1,489.0万円(全体) |
2人と3人は、控除の合計がどちらも6,000万円(3,000万円×2人、2,000万円×3人)で、税額の合計が同じ270.1万円になります。4人は合計8,000万円で、譲渡所得が収まるため税額が0円です。控除の要件(1981年(昭和56年)5月31日以前の建築、被相続人の一人暮らしなど)を満たさないと、全体に20.315%がかかります。
「相続人の数」は、国土交通省の資料では、家屋と敷地を取得した相続人の数とされています(2026年10月16日確認)。取得費加算の特例は3,000万円控除と併用できず、選ぶことになります。最終判断は、税務署または税理士へ確認してください。
代表者の名義で売る場合に、各相続人が3,000万円控除を受けられるかを直接示した資料は、確認できませんでした。この点は公表資料では確認できていないため、事前に税務署・税理士に確認してください。
代表者の名義で売ると、贈与税はかかりますか?
遺産分割の調停の事案では、代表者の名義にしたのが換価のための便宜で、代金が調停の内容どおりに実際に分配されるなら、贈与税は問題になりません(国税庁の質疑応答事例、令和7年8月1日現在)。
質疑応答事例の事実関係は、調停で換価分割をすることになり、換価の都合で共同相続人の1人の名義に相続登記をしてから売り、代金を分配するというものです。
確認できる範囲と、確認できない範囲は、次のとおりです。
| 場面 | 確認できること |
|---|---|
| 調停による換価分割で、便宜の名義で売り、代金が内容どおりに分配される | 贈与税は問題にならない(国税庁の質疑応答事例) |
| 相続人間の協議(調停ではない)による換価分割で、代表者名義で売る | 同じ事案を直接示した国税庁の資料は、公表資料では確認できていません。税務署・税理士に確認してください。 |
| 代金が協議・調停の内容どおりに分配されない | 贈与になれば、個人から個人への贈与として贈与税の対象になる(国税庁 No.4402)。個別の判断は税務署・税理士へ |
名義は便宜のもので、代金は協議書の割合どおりに分けるという前提を、協議書に書き、実際に守ることが大切です。
代表者は、誰がなり、どんな点に注意しますか?
代表者は、売却の手続きと代金の受領を担う相続人です。代表者を置くと手続きが簡単になる一方、全員の信頼と記録が必要になります。
| 方法 | 向くケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 代表者の単独名義にして売る | 相続人が多い、遠方に住む人がいる | 代表者に手続きと代金の管理が集中する。代表者が亡くなったり、判断が難しくなったりした場合の備えが要る |
| 全員の共有名義で、全員が売主になる | 代表者を置きたくない、互いの信頼に不安がある | 契約や決済のたびに全員の署名押印が要る。1人でも手続きに応じないと進まない |
代表者の選び方に決まりはありません。物件の近くに住む、時間が取れる、全員が納得している、といった事情で決め、任せる範囲は協議書に書きます。
あなたのケースでは、換価分割が向いていますか?
誰も取得を望まず、代償金を払える人もいなければ、換価分割が向きます。誰かが住み続けたい、または売ることに反対する相続人がいるなら、別の分け方を比べます。
| あなたの状況 | 目安 |
|---|---|
| 誰も住まず、取得を望む人もいない | 換価分割を検討。分配の割合と代表者を決める |
| 1人が住み続けたい、または持ち続けたい | 代償分割、または共有を検討。代償金の資金を確かめる |
| 売ることに反対する相続人がいる | 換価分割は全員の合意が前提。共有名義の記事で持分の売却や裁判所の手続を比べる |
| 売れそうにない土地や空き家 | 売れないまま共有が続くおそれ。売れないときの対処を先に確かめる |
| 売却の期限が近い | 期限カレンダーで売却の期限を逆算 |
換価分割が向かない人もいます。取得して住みたい相続人がいる人、全員の合意が取れていない人、売却の見通しが立たない人です。
売る方向で、複数の不動産会社の査定を比べたい人向けに、無料の一括問い合わせ窓口があります。提携先の条件はサービスごとに異なるため、申込み前に各社の案内を読んでください。
この記事で使える計算ツール
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よくある質問
換価分割とは何ですか?
相続した不動産を売り、その代金を相続人で分ける遺産分割の方法です。誰も取得を望まない場合や、代償金を払える人がいない場合に使われます。
換価分割の税金は、誰が払いますか?
売却の時点で代金の取得割合が決まっていれば、その割合に応じて、各相続人が譲渡所得の確定申告をして払います。決まっていなければ、法定相続分で申告します。
換価分割で代表者の名義で売ると、贈与税がかかりますか?
調停の事案では、名義が換価のための便宜で、代金が内容どおりに分配されるなら、贈与税は問題になりません(国税庁の質疑応答事例)。協議による場合は、税務署・税理士に確認してください。
3,000万円控除は、兄弟それぞれが使えますか?
要件を満たす相続人ごとに使えます。相続人が3人以上の場合は、1人あたり2,000万円までです(令和6年1月1日以後の売却)。
この記事の根拠
- 広島家庭裁判所「遺産分割調停の手引き」(遺産の分割方法は現物分割・代償分割・換価分割・共有分割の4つ)(確認日 )
- 国税庁 質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」(令和7年8月1日現在。ページはShift_JISのため文字コードを指定して全文を確認)(確認日 )
- 国税庁 質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」(令和7年8月1日現在。同上)(確認日 )
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(令和8年4月1日現在法令等。相続人3人以上は2,000万円、令和9年12月31日まで)(確認日 )
- 国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合(令和8年4月1日現在法令等)(確認日 )
- 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表(相続による所有権移転は1,000分の4)(確認日 )
- 民法(e-Gov法令検索)906条・907条 遺産分割の基準・協議又は審判、258条 裁判による共有物の分割(確認日 )
- 法務省 相続登記の申請義務化について(更新日 令和7年3月27日)(確認日 )
- 法務局「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」令和6年9月版(協議書に相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添付。法務局は協議書の作成の相談に応じられない)(確認日 )
- 国土交通省 3,000万円特別控除の「相続人の数」の数え方(家屋・敷地を取得した相続人の数)(確認日 )
- 国税庁 No.3208 譲渡所得の税率(長期)、No.3258 概算取得費(確認日 )
最終更新:2026年10月17日。制度の数字は2026年10月時点の公表情報です。
- 広島家庭裁判所「遺産分割調停の手引き」、民法906条・907条(e-Gov法令検索)
- 国税庁 質疑応答事例(未分割遺産の換価による譲渡所得、換価分割のための相続登記と贈与税。令和7年8月1日現在)、国税庁 No.3306・No.4402・No.7191(令和8年4月1日現在法令等)
- 法務省「相続登記の申請義務化について」(令和7年3月27日更新)、法務局「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」令和6年9月版
以上は2026年10月17日に確認しました。
- 国税庁 No.3202・3208・3258、国土交通省の3,000万円控除の資料(2026年10月16日確認)
この記事は一般的な情報です。個別の税額や特例の可否は、税理士・税務署にご確認ください。協議書の作成は、司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください。