第4章 実行|買取・訳あり
共有名義の実家を売る:全員の同意・持分だけ売る・分け方
共有名義の実家は、全体を売るには共有者全員の同意が必要です。自分の持分だけなら、他の共有者の同意なしに売れます。
- 共有物の全体を売ることは、共有者全員の同意が必要です(民法251条1項)。反対者がいる、連絡がつかないときは、裁判所の手続や分割請求を使います。
- 自分の持分だけを売ることは、他の共有者の同意なしにできます(民法206条)。ただし、買主は新たな共有者として、共有物の分割を請求できます(同法256条)。
- 売って代金を分ける換価分割では、相続人の人数によって、3,000万円控除の上限が変わります。あなたのケースは診断で確かめてください。
実家が共有名義になるのはなぜで、持分はどう決まりますか?
相続人が複数いると、遺産分割が終わるまで、相続財産は相続人の共有になります(民法898条1項)。共有持分は、法定相続分で算定されます(同条2項)。
共有持分とは、1つの不動産を複数人で所有するとき、各共有者が持つ所有権の割合(権利)です。各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用ができます(民法249条1項)。
法定相続分の例は次のとおりです(民法900条)。
| 相続人 | 法定相続分 |
|---|---|
| 配偶者と子2人 | 配偶者2分の1、子は各4分の1 |
| 子3人(配偶者なし) | 各3分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者4分の3、兄弟姉妹が合わせて4分の1 |
遺産分割とは、相続財産を相続人で分ける手続きです。協議で決まらないときは、家庭裁判所に請求できます(民法907条)。遺産分割の効力は、相続開始の時にさかのぼります(同法909条)。
相続登記をしないまま放置すると、次の相続で共有者がさらに増えることがあります。相続登記は、相続による取得を知った日から3年以内の申請義務があります(不動産登記法76条の2)。令和6年(2024年)4月1日より前の相続は、令和9年(2027年)3月31日までが目安です(法務省)。期限は期限カレンダーで出せます。
共有名義の実家を丸ごと売るには、全員の同意が必要ですか?
共有物の全体を売るには、他の共有者全員の同意が必要です。条文上は「変更」にあたり、全員の同意を得なければ変更を加えられないと定められています(民法251条1項)。
売却が「変更」に含まれるという点は、条文に明記されておらず、解説に基づく解釈です。
共有物に関する行為と、必要な同意は次のとおりです(令和3年法律第24号による改正後の現行条文)。
| 行為 | 必要な同意 | 根拠 |
|---|---|---|
| 保存行為(修繕など) | 各共有者が単独でできる | 民法252条5項 |
| 管理(賃貸借の設定を含む一定のもの) | 持分の価格の過半数 | 民法252条1項・4項 |
| 軽微な変更(形状または効用の著しい変更を伴わないもの) | 持分の価格の過半数 | 民法251条1項(括弧書き)、252条1項 |
| 変更(軽微でないもの)。共有物全体の売却を含むと解される | 他の共有者全員の同意 | 民法251条1項 |
| 共有物の分割の請求 | 各共有者がいつでもできる | 民法256条1項 |
この改正は、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)によるもので、e-Gov法令検索の改正履歴では施行日は2023年(令和5年)4月1日です。
共有者の一部が売りたくない、または意見が割れているときは、全体の売却はできません。次の章の手続きを使います。
自分の持分だけを売ることはできますか?
自分の持分だけを売ることはできます。所有者は、法令の範囲内で自由に処分できるためです(民法206条)。他の共有者の同意は、持分の売却には必要ありません。
売るときの注意点は次のとおりです。
- 買主は、新しい共有者になります。共有者は、いつでも共有物の分割を請求できるため(民法256条1項)、買主から分割請求を受ける可能性があります。
- 買い手は、他の共有者か、持分を専門に買い取る会社が中心になります。
- 価格には、公的な相場がありません。全体の価格に持分割合を掛けた額から割り引かれるとする解説や、数字を示す記事もありますが、根拠が示されていないため、この記事では数字を採用しません。複数社の見積りで確かめます。
- 他の共有者との関係が悪化することがあります。売る前に、事情を伝えておく方法もあります。
- 持分の売却益も、譲渡所得の対象です。所有期間は、相続の場合は被相続人の取得日から数えます(国税庁 No.3202)。
遺産分割がまだのときは、注意が必要です。遺産分割をすべき共有(遺産共有)では、原則として、通常の共有物分割はできず、遺産分割によります(民法258条の2第1項)。持分の売却を進める前に、遺産分割の状況を整理します。
持分だけを売る場合の3,000万円控除の可否は、家屋の耐震基準や取壊しの要件との関係があるため、税務署・税理士に確認してください。
共有者が反対しているとき、連絡がつかないときはどうしますか?
反対している共有者がいるときは、共有物の分割を請求できます。連絡がつかない、所在が分からない共有者がいるときは、裁判所の制度を使えます。遺産共有の場合は、遺産分割が先になります。
| 状況 | 使える方法 | 根拠・条件 |
|---|---|---|
| 共有者の間で分け方が決まらない | 協議。まとまらなければ裁判所に共有物分割を請求 | 民法258条1項 |
| 遺産分割がまだ終わっていない | 遺産分割(協議、調停、審判)が先 | 民法258条の2第1項、907条 |
| 相続開始から10年を経過した遺産共有の持分 | 共有物分割の請求ができる(相続人が異議を申し出た場合は別) | 民法258条の2第2項・第3項 |
| 共有者の一部が知れない、所在が分からない | 裁判所に、その持分を取得させる裁判を請求 | 民法262条の2 |
| 同上で、他の共有者全員が持分を第三者に譲渡する場合 | 裁判所に、不明な共有者の持分の譲渡権限の付与を請求 | 民法262条の3 |
| 共有者が不明で、変更や管理を決められない | 裁判所に、不明者以外の同意などで決められる旨の裁判を請求 | 民法251条2項、252条2項 |
裁判所による共有物の分割の方法は、民法258条2項と3項に定められています。
- 共有物の現物を分割する。
- 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部または一部を取得させる(価格賠償)。
- 分割できないとき、または価格を著しく減らすおそれがあるとき、競売を命じる。
所在等不明共有者の持分が遺産共有に属する場合は、相続開始から10年を経過するまで、262条の2と262条の3の裁判はできません(262条の2第3項、262条の3第2項)。
所在不明の共有者の持分を取得した共有者は、その持分の時価相当額を支払う義務があります(262条の2第4項)。
申立ての手数料と所要期間は事件ごとに違うため、管轄の裁判所で確認します。
売った代金は、どう分け、税金はどうなりますか?
売って代金を分ける方法を、換価分割といいます。申告は、取得する代金の割合に応じて、各人がするのが基本です。空き家の3,000万円控除は、取得した相続人の人数で上限が変わります。
換価分割とは、遺産の不動産を売却し、その代金を相続人で分ける分割の方法です。
手順の例は次のとおりです。
- 全員で、売ること、代表者、分配の割合を遺産分割協議書に明記する。
- 相続登記をする(共有名義、または代表者名義)。登録免許税は不動産の価額の0.4%です。
- 不動産を売り、決済する。
- 協議書のとおり、代金を分配する。
- 売った翌年に、各人が確定申告をする(確定申告の記事)。
譲渡所得の申告者は、国税庁の質疑応答事例では、売る時点で代金の取得割合が決まっていれば、その割合で各相続人が申告します。決まっていなければ法定相続分で申告します。ただし、確定申告の期限までに代金を分け、相続人全員がその割合で申告すれば認められます。期限後に分けても、更正の請求はできません。
代表者の単独名義で売って代金を分ける場合について、国税庁の質疑応答事例は、調停による換価分割で、名義が換価のための便宜にすぎず、代金が調停どおりに実際に分配されるなら、贈与税の課税は問題にならないとしています。協議で分ける場合は、協議書に換価分割であることと分配の割合を明記し、税理士に確認してください。
モデルケース(見本の数字)。実在の事例ではありません。
条件:売却時の譲渡所得(特別控除前)が全体で6,000万円。全員が空き家の3,000万円控除の要件を満たし、長期、令和6年1月1日以後の譲渡。
| ケース | 家屋と敷地を取得した相続人 | 1人あたりの譲渡所得 | 1人あたりの控除上限 | 税額(合計) |
|---|---|---|---|---|
| A. 3人が3分の1ずつ共有で売る | 3人 | 2,000万円 | 2,000万円 | 0円 |
| B. 2人が2分の1ずつ共有で売る | 2人 | 3,000万円 | 3,000万円 | 0円 |
| C. 1人が全部を取得して売る | 1人 | 6,000万円 | 3,000万円 | 609.45万円(3,000万円×20.315%) |
控除の上限は、家屋と敷地を取得した相続人が3人以上の場合は1人2,000万円、それ以外は3,000万円です(租税特別措置法35条3項、国税庁 No.3306)。この表は仕組みを示す計算で、取得費や譲渡費用は譲渡所得に反映済みとしています。
Cのように1人が取得すると、他の相続人との公平を保つ代償金などが別に必要になります。どの形で取得するかは、遺産分割の内容や贈与税の問題が絡むため、売却前に税理士へ相談してください。
共有を解消する方法を比べると、どうなりますか?
共有を解消する方法は、全員で売る、1人が取得する、持分を売る、裁判所で分けるなどです。共有者の意思がそろうかで、選べる方法が変わります。
| 方法 | 向くケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 全員で売って代金を分ける(換価分割) | 全員が売ることに賛成している | 協議書に代表者と分配割合を明記。控除の人数に注意 |
| 1人が取得し、他の共有者に代償金を払う | 誰かが住む、または持ち続けたい | 代償金の資金が必要。評価額の合意が要る |
| 土地を分筆して現物で分ける | 土地が広く、分けても使える | 分筆後の各土地が道路に接するかなどの確認が必要 |
| 持分を他の共有者に売る | 他の共有者が買い取る意思がある | 価格は交渉。公的な相場はない |
| 持分を第三者(専門の買取会社)に売る | 他の共有者と交渉が進まない | 買主が新たな共有者になる。価格は複数社で比べる |
| 共有物分割を裁判所に請求 | 協議が調わない | 時間と費用がかかる。競売になる場合もある |
| 共有のまま持ち続ける | 当面使う予定がある | 次の相続で共有者が増える。固定資産税などの負担を分ける取り決めが要る |
あなたのケースでは、どの方法にしますか?
共有者全員が売ることに賛成なら、全体の売却を先に検討します。反対者がいる、連絡がつかない場合は、持分の売却や裁判所の手続を比べます。
| あなたの状況 | 目安 |
|---|---|
| 全員が売ることに賛成 | 全体の売却(売る流れ)。換価分割の協議書を作る |
| 一部が反対、または意見が割れている | 先に話し合い。決まらなければ分割請求も視野 |
| 連絡がつかない・所在不明の共有者がいる | 262条の2・262条の3の裁判の可否を弁護士に相談 |
| 自分の持分だけ早く手放したい | 持分の買取を複数社で見積り |
| 遺産分割が終わっていない | 遺産分割を先に進める(家庭裁判所) |
| 控除の期限が近い | 期限を逆算(売る流れと期限) |
共有持分や訳あり不動産の買取査定を申し込める窓口があります。提携先は全国対応をうたっていますが、物件によっては買取の対象外になる場合があります。他の共有者と話し合える人や、全体を売れる人には向きません。申込み前に、各社の案内を読んでください。
この記事で使える計算ツール
計算ツールは、本文の後に置く追加機能です。ツールが動かない環境でも、本文の説明と表の計算例だけで内容を読めます。
よくある質問
共有名義の不動産は、1人だけの判断で売れますか?
共有物の全体は、1人の判断では売れません。共有者全員の同意が必要です(民法251条1項)。自分の持分だけなら、単独で売れます(民法206条)。
共有持分だけを売ると、どうなりますか?
買主は新たな共有者になり、共有物の分割を請求できます(民法256条1項)。買い手は他の共有者か専門の買取会社が中心で、価格には公的な相場がありません。
共有者の1人が連絡不能なら、売れませんか?
裁判所に、不明な共有者の持分を取得させる裁判(民法262条の2)や、持分を譲渡する権限を与える裁判(262条の3)を請求できます。遺産共有で相続開始から10年を経過していない場合は、この裁判はできません。
共有でも、空き家の3,000万円控除は使えますか?
要件を満たす相続人ごとに使えます。家屋と敷地を取得した相続人が3人以上の場合は、令和6年(2024年)1月1日以後の譲渡で、1人2,000万円までです。最終判断は税理士・税務署へ相談してください。
換価分割とは何ですか?
遺産の不動産を売却し、その代金を相続人で分ける分割の方法です。協議書に、売却すること、代表者、分配割合を明記します。
この記事の根拠
- 国税庁 質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」(令和7年8月1日現在の法令等に基づく)(確認日 )
- 民法(e-Gov法令検索)206条・249条・251条・252条・256条・258条・258条の2・262条の2・262条の3・898条・900条・907条・909条(令和8年6月24日改正施行分を含む現行条文)(確認日 )
- 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)。e-Gov法令検索の改正履歴で、民法の施行日2023-04-01を確認(確認日 )
- 租税特別措置法35条3項、国税庁 No.3306(空き家3,000万円控除。相続人3人以上は令和6年1月1日以後の譲渡で1人2,000万円。2026-10-17に再確認)(確認日 )
- 国税庁 質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」(令和7年8月1日現在の法令等に基づく)(確認日 )
- 国税庁 No.3208 譲渡所得の税率(長期)(確認日 )
- 不動産登記法76条の2・76条の3、法務省 相続登記の申請義務化(確認日 )
- 相続会議(朝日新聞社)「共有持分の売却方法 相場や想定トラブルとその対処法」(持分の買取相場の記載の有無の確認。更新2025-12-02の表示)(確認日 )
最終更新:2026年10月17日。制度の数字は2026年10月時点の公表情報です。
- 民法206条・249条・251条・252条・256条・258条・258条の2・262条の2・262条の3・898条・900条・907条・909条(e-Gov法令検索、2026年10月17日確認)
- 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)の民法の施行日2023年4月1日(e-Gov法令検索の改正履歴、2026年10月17日確認)
- 租税特別措置法35条3項、国税庁 No.3306・3208・3202、国税庁の質疑応答事例(換価分割)、不動産登記法76条の2、法務省の相続登記の申請義務化(2026年10月16日確認)
- 相続会議「共有持分の売却方法 相場や想定トラブルとその対処法」(更新2025年12月2日の表示、2026年10月17日確認)
この記事は一般的な情報です。個別の法的判断や税額は、弁護士・税理士にご確認ください。