第4章 実行|売る
私道に面した家を売る:通行・掘削承諾書の項目と、取れないとき
私道に面した家を売るときは、買主や水道事業者が私道の所有者の通行・掘削の承諾書を求めることがあります。承諾書の項目と、取れないときの条文上の道を整理します。
- 承諾書の様式を定めた条文は、民法・建築基準法・宅地建物取引業法の確認した条文にありません。書く項目は、通行・掘削・復旧・費用・承継ごとに、本文の表で確かめられます。
- 承諾を取る相手は、私道の所有状態で変わります。登記事項証明書で、私道の所有者と持分を先に確かめます。
- 取れないときも道はあります。水道などの設備は民法213条の2、共有私道は民法251条・252条の裁判があります。ただし、通知・償金・費用の負担が付きます。
通行・掘削承諾書とは何で、どんなときに求められますか?
通行・掘削承諾書とは、私道の所有者が、その私道を通行すること、地下に水道管・排水管・ガス管などを通す掘削をすることを承諾した旨を書いた書面です。承諾書の文案やひな形は載せず、項目と意味、注意点を表にして、条文と公式ページで確かめられる範囲に限ります。
| 場面 | 誰が気にするか | 確かめられる根拠 |
|---|---|---|
| 水道管を新設・引込みするとき | 水道事業者(自治体) | 給水装置工事の申込書に、私道の所有者の承諾書を添付する様式がある(長野市「私道等給水管布設承諾書」、千葉市「土地利用承諾書:他人の土地を利用する場合」) |
| 売買契約の前の説明 | 不動産会社(宅地建物取引士) | 私道に関する負担、飲用水・電気・ガスの供給と排水の施設の整備状況を、買主に説明する(宅建業法35条1項3号・4号) |
| 買主が建て替えるとき | 買主・建築確認の窓口 | 敷地は建築基準法の道路に2m以上接する必要がある(建築基準法43条1項)。前の私道がその道路に当たるかが先に問われる |
水道事業者が求める書類は、自治体ごとに違います。売る家の所在地の水道事業者の窓口で、様式と要否を確かめてください。
前の私道は、建築基準法上のどの種類ですか?
私道は、建築基準法の道路(42条)に当たるものと当たらないものに分かれます。私道が建築基準法の道路に当たるかで、買主が建て替えられるかが変わります。
| 前の道の種類 | 根拠 | 売るときの意味 |
|---|---|---|
| 道路法による道路(国道・県道・市道など) | 建築基準法42条1項1号 | 私道ではないため、この記事の承諾書の対象ではない |
| 位置の指定を受けた私道(位置指定道路) | 同項5号。築造する者が特定行政庁から位置の指定を受けた道 | 建築基準法の道路。所有者は私人で、通行・掘削は所有者との関係になる |
| 2項道路 | 同条2項。建築基準法が適用された時点で建物が立ち並んでいた幅員4m未満の道で、特定行政庁が指定したもの | 道路の中心線から水平距離2mを道路の境界線とみなす。敷地が後退する場合がある |
| 建築基準法の道路でない私道 | 42条の各号に当たらない | 敷地が道路に2m以上接しないため、建て替えができない(43条1項) |
建築基準法の道路でない私道にしか接していない家は、再建築不可の家と同じ悩みになります。再建築不可の家を手放す方法と、道路に接していない土地の通行権の確かめ方を先に読んでください。
私道を勝手に変えたり廃止したりすることにも、制限があります。変更・廃止で接する敷地が接道義務(43条1項)に抵触する場合は、特定行政庁が禁止・制限できます(建築基準法45条)。
私道の所有者と持分は、どう確かめますか?
私道の所有者と持分は、法務局で公図と登記事項証明書を取って確かめます。私道は筆(登記上の土地の単位)ごとに所有者が違うことがあるため、公道までの間の土地を1筆ずつ見ます。
| 確かめること | 資料 | 取得先 |
|---|---|---|
| 公道までの間にある土地の地番 | 公図 | 法務局 |
| 私道の所有者・持分 | 私道の土地の登記事項証明書 | 法務局 |
| 売る土地に私道の持分があるか | 売る土地の登記事項証明書・固定資産税の課税明細書 | 法務局・家にある書類 |
| 通行地役権の登記 | 売る土地と私道の土地の登記事項証明書 | 法務局 |
| 過去の承諾書・覚書 | 親が保管していた書面 | 家の書類 |
| 水道管・排水管・ガス管の位置 | 配管図・工事の記録 | 水道事業者・ガス会社・家の書類 |
課税明細書には、土地の所在・地番・地目・地積・価格が載ります(地方税法364条3項)。私道の持分の有無は、登記事項証明書でも確かめます。
相続登記が済んでいないと、売主が登記上は亡くなった親のままです。先に売る前の相続登記を済ませてください。
| 私道の所有状態 | 承諾を取る相手 | 条文で確かめること |
|---|---|---|
| 売る土地に私道が含まれる(売主の単独所有) | 近隣で通行・配管している家との取決めを確かめる | 通行地役権の登記の有無(不動産登記法3条4号・80条) |
| 私道を数人で共有している(売主に持分あり) | 他の共有者 | 形状・効用の著しい変更は他の共有者の同意(民法251条1項)。管理は持分の価格の過半数(同252条1項)。保存行為は各共有者(同条5項) |
| 私道を他人が所有している(売主に持分なし) | 私道の所有者 | 承諾の根拠は所有者との合意。承諾が取れないときは次の見出しの表 |
| 私道が数筆に分かれ、近隣の家が1筆ずつ持つ | 買主の配管・通行が通る筆の所有者それぞれ | 筆ごとに所有者と持分を登記事項証明書で確かめる |
共有私道の掘削が、民法の「変更」と「管理」のどちらに当たるかは、工事の内容で変わります。法務省の「共有私道の保存・管理等に関する事例研究会」が、共有者の同意の要件を明確にするガイドラインを取りまとめています(第2版が公表)。共有者が多いときは、不動産会社や弁護士・司法書士と一緒に確かめてください。
承諾書には、どんな項目を書きますか?
承諾書には、承諾する人、対象の私道、通行の範囲、掘削の範囲、復旧、費用、期間、承継を書きます。次の表は文案ではなく、項目の意味と、決め忘れやすい点を整理したものです。
| 項目 | 書く内容の考え方 | 意味・決めておく理由 | 注意(根拠) |
|---|---|---|---|
| 1 承諾する人 | 氏名・住所・私道の地番と持分 | 私道の所有者本人の承諾であることを示す | 登記上の所有者と署名する人が同じか確かめる。相続登記が済んでいない場合は、名義人が亡くなっている |
| 2 承諾を受ける土地 | 売る土地の地番(通行・配管で利益を受ける土地) | どの土地のための承諾かを特定する | 通行地役権は要役地の所有権とともに移るのが原則(民法281条1項)。承諾書は書面の定めによる |
| 3 対象の私道 | 地番・位置・範囲(図面を添付) | 通行・掘削が及ぶ場所を特定する | 私道が数筆なら、筆ごとに所有者の承諾が要る |
| 4 通行の承諾 | 歩行・自転車・自動車の通行 | 買主が生活で使う通行を認めてもらう | 通れる幅や車の通行は、法律上の通行権でも条文に定めがなく、個別の事情で判断される(民法211条は「必要かつ損害が最も少ない」とだけ定める) |
| 5 工事車両の通行 | 建て替え・解体の工事車両(重機を含むか) | 通常の通行と工事車両は別に定める場合がある | 買主が建て替えるときに、工事車両の通行が承諾に含まれるかを確かめる |
| 6 掘削の承諾 | 水道管・排水管・ガス管などの新設・取替え・修繕・撤去 | 引込みや更新の工事を私道の下で行うことを認めてもらう | 水道・電気・ガスは民法213条の2、公共下水道への排水は下水道法11条に、条文上の権利がある |
| 7 工事の手順 | 掘削の位置・時期・事前の連絡の方法 | 工事の前に所有者へ知らせる流れを決める | 民法213条の2第3項は、設備の設置や他人の設備の使用の前に、目的・場所・方法を所有者らへ通知するよう定める |
| 8 既存の配管の使用 | 私道の下にある他人の配管を使うか | 配管を共用する費用の負担を決める | 他人の設備を使う者は、利益を受ける割合に応じて設置・改築・修繕・維持の費用を負担する(民法213条の2第7項) |
| 9 復旧 | 掘削後の舗装・原状回復の範囲と期限 | 工事後に私道を元の状態にする責任を決める | 復旧の費用を誰が負うかを書面に書く |
| 10 損害と償金 | 工事で生じた損害の賠償・償金の定め | 損害の扱いを後で争わないようにする | 民法213条の2第5項は、設備の設置に伴う私道の土地の損害に償金を支払うよう定める。一年ごとの支払いも可 |
| 11 承諾料・対価 | 無償か有償か、金額と支払い方法 | お金の授受の有無を明確にする | 承諾は所有者との合意で、金額は話し合いで決まる。相場の一次統計はなく、この記事は数字を書かない |
| 12 期間と撤回 | 期限の有無、撤回できるか | 承諾が一時的か恒久的かを決める | 恒久的に通行を確保するなら、通行地役権として登記する方法がある(不動産登記法3条4号・80条) |
| 13 承継 | 所有者が変わったとき、買主やその後の所有者にも効力が及ぶ旨 | 売ったあとの所有者にも承諾を引き継ぐ | 承諾書の効力が、承諾した人の相続人・私道の新しい所有者に及ぶかは、書面の定めと法律関係による。弁護士・司法書士に確認する |
| 14 維持管理費 | 私道の清掃・補修・舗装の費用の分担 | 売ったあとの私道の費用の負担を決める | 共有私道では、管理の決め方は持分の価格の過半数(民法252条1項) |
| 15 署名・日付・添付 | 署名押印、作成日、図面、登記事項証明書 | 誰がいつ承諾したかを示す | 実印・印鑑証明書を求めるかは、提出先(水道事業者・買主)に確認する |
売るときは、承諾書の有無や、私道の持分の有無を買主に伝えます。分かっている事実は物件状況報告書(告知書)に書き、契約の扱いは契約不適合責任の免責特約を読んでください。
2023年(令和5年)4月の民法改正で、掘削の承諾は不要になりましたか?
承諾書が全く不要になったわけではありません。2023年(令和5年)4月1日施行の民法改正で、他人の土地に設備を設置する権利が条文になりました(民法213条の2、法務省)。ただし、使うには条文の条件を満たす必要があります。
| 項 | 内容 |
|---|---|
| 1項 | 他の土地に設備を設置し、または他人が所有する設備を使用しなければ、電気・ガス・水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けられないとき、必要な範囲内で設置・使用できる |
| 2項 | 設置・使用の場所と方法は、他の土地や他人の設備にとって損害が最も少ないものを選ぶ |
| 3項 | あらかじめ、目的・場所・方法を、他の土地等の所有者と、その土地を現に使用している人に通知する |
| 4項 | 設備の設置・使用のために、その土地を使用できる |
| 5項 | 他の土地に設備を設置する者は、土地の損害に償金を支払う。一年ごとの支払いもできる |
| 6項 | 他人の設備を使う者は、使用を開始するために生じた損害に償金を支払う |
| 7項 | 他人の設備を使う者は、利益を受ける割合に応じて、設置・改築・修繕・維持の費用を負担する |
条文の対象は、電気・ガス・水道水の供給などの継続的給付です。排水が含まれるかは条文に明記がありません。公共下水道へ流す排水設備は、下水道法11条が別に定めています。他人の土地または排水設備を使わなければ下水を公共下水道に流入させることが困難なときは、他人の土地に排水設備を設置でき、最も損害の少ない場所と方法を選びます。事前に占有者に告げる必要があり、使用で生じた損失は補償します(下水道法11条)。
承諾書が取れないとき、どんな道がありますか?
承諾書が取れないときの道は、状況によって違います。
| 状況 | 道 | 根拠 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 共有私道の共有者の所在が分からない | 裁判所に、その共有者以外の同意で変更・管理ができる旨の裁判を求める | 民法251条2項、252条2項1号 | 裁判所の手続になる。弁護士・司法書士に相談する |
| 共有私道の共有者が、決めることへの賛否を示さない | 期間を定めて催告し、答えがなければ、裁判所に裁判を求める | 民法252条2項2号 | 催告の方法と期間は、弁護士・司法書士に確認する |
| 水道・電気・ガスの設備が必要で、所有者が拒否している | 民法213条の2に基づき、必要な範囲で設置する | 民法213条の2第1項〜7項 | 通知・損害の最も少ない方法・償金・費用の負担が付く。水道事業者の書類は別に確かめる |
| 排水設備が必要で、所有者が拒否している | 公共下水道へ流すために、他人の土地に排水設備を設置する | 下水道法11条 | 事前の告知と損失の補償が付く |
| 通行そのものが認められない | 通行の権利の種類(囲繞地通行権・通行地役権・承諾)を確かめる | 民法210条・211条・280条 | 前の道が私道だけの土地に210条が当てはまるかは、土地の状況による。道路に接していない土地の記事で確かめる |
| 売るまでに承諾書が間に合わない | 承諾書がない事実を買主に伝えて売る。取得を引渡しの条件にするかは契約で決める | 宅建業法35条1項3号・4号 | 条件の付け方は、不動産会社・弁護士・司法書士に確認する |
| 私道の持分がなく、承諾も難しい | 私道の所有者から持分を買う・譲ってもらう | 民法(売買) | 持分の価格と登記の費用がかかる。売主と買主のどちらが負担するかは契約で決める |
| 承諾書を取る時間と手間をかけられない | 私道の承諾が取れない家を扱う買取業者に査定を依頼する | — | 買取と仲介の違いは買取と仲介の比較で確かめる |
承諾料を求められたら、払う必要がありますか?
承諾料を払う義務を定めた条文は、確認した条文にありません。通行・掘削の承諾は、所有者との合意です。金額は話し合いで決まります。
民法213条の2第5項は、設備の設置で他の土地に生じた損害に償金を支払うよう定めます。承諾料という名目ではなく、損害に対する償金です。
あなたのケースでは、どの順番で進めますか?
私道に面した家は、私道の種類の確認、所有者と持分の確認、水道事業者への確認、承諾書の取得の順に進めます。売主が自分で承諾書を取る前に、不動産会社と買主側が何を求めるかを確かめます。
| あなたの状況 | 次の一歩 |
|---|---|
| 前の道が何の道路か分からない | 市区町村の建築担当課で、建築基準法の道路かを確かめる |
| 私道の所有者・持分が分からない | 公図と登記事項証明書を取り、公道までの筆を1筆ずつ見る |
| 所有者と連絡が取れる | 項目表をもとに、不動産会社・買主側と承諾書の内容を決める |
| 共有者が多い、または所在が分からない | 民法251条・252条の裁判を、弁護士・司法書士に相談する |
| 水道の引込みが必要 | 水道事業者の窓口で、私道の承諾書の様式と要否を確かめる |
| 手取りを知りたい | 売却手取り計算で、価格ごとに試す |
| 家を相続したばかり | 空き家を相続したら最初にやることで、期限の順番を確かめる |
私道の承諾書が取れない家など、訳ありの不動産の買取を扱う会社に査定を申し込める窓口があります。物件によっては対象外です。価格を最優先する人、承諾書を取る時間と手間をかけられる人、売るかどうか家族で決まっていない人には向きません。申込み前に、各社の案内を読んでください。
物件が新潟県にある場合は、姉妹サイトの新潟 実家じまいナビ(運営:株式会社Kogera)が県内の情報をまとめています。
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よくある質問
通行・掘削承諾書がないと、家は売れませんか?
承諾書がなければ売買できないと定めた条文は、確認した民法・建築基準法・宅建業法にありません。買主や水道事業者が求める場合があるため、先に不動産会社と水道事業者に確かめます。
私道の持分がない家は売れますか?
持分の有無だけで売買を禁じる条文は、確認した条文にありません。持分がない場合、通行・掘削の根拠は、私道の所有者の承諾や、通行地役権、民法の設備設置権になります。
私道の所有者が複数いて、全員の署名が要りますか?
共有私道では、工事の内容で必要な同意が変わります。形状・効用の著しい変更は他の共有者の同意(民法251条1項)、管理は持分の価格の過半数(同252条1項)です。署名を何人分求めるかは、買主と水道事業者に確かめます。
亡くなった親が口約束で通っていた私道は、売るとき引き継げますか?
口約束だけでは、買主が通行や掘削の範囲を確かめられません。書面にできるか、所有者に相談します。恒久的に確保するなら、通行地役権として登記する方法があります(不動産登記法3条4号・80条)。
この記事の根拠
- 民法(e-Gov法令検索)210条・211条・213条の2・213条の3・251条・252条・280条・281条(確認日 )
- 建築基準法(e-Gov法令検索)42条・43条・45条(確認日 )
- 不動産登記法(e-Gov法令検索)3条・80条(確認日 )
- 宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)35条1項3号・4号(確認日 )
- 下水道法(e-Gov法令検索)11条(確認日 )
- 法務省「共有私道の保存・管理等に関する事例研究会(第2期)」(所有者不明私道への対応ガイドライン第2版の公表ページ)(確認日 )
- 法務省「民法等の一部を改正する法律・相続土地国庫帰属法の概要」(令和5年4月1日施行の記載)(確認日 )
- 長野市上下水道局「給水装置・工事申込関係様式」(私道等給水管布設承諾書)(確認日 )
- 千葉市水道局「給水装置関係の様式」(土地利用承諾書:他人の土地を利用する場合)(確認日 )
最終更新:2026年10月25日。制度の内容は2026年10月時点の法令と公表資料です。
- 民法・建築基準法・不動産登記法・宅地建物取引業法・下水道法(e-Gov法令検索)
- 法務省の共有私道の事例研究会の公表ページ、民法改正(所有者不明土地等関係)の概要資料
- 長野市・千葉市の給水装置工事の申込関係の様式ページ
この記事は一般的な情報です。承諾書の内容、通行や掘削の権利の判断は弁護士・司法書士に、税額は税務署・税理士にご確認ください。