第4章 実行|活かす

空き家を貸す契約:普通借家・定期借家・使用貸借の比較と事前説明

空き家を貸す契約は、普通借家・定期借家・使用貸借の3種類です。返してもらう時期、書面と事前説明、家賃の有無が違うので、貸す前に選びます。

  • 普通借家は、貸主から更新を断るにも解約を申し入れるにも、正当の事由が必要です(借地借家法28条)。期間が来ても、家が戻るとは限りません。
  • 定期借家は、更新がなく、期間の満了で終わる契約です。書面での契約と、貸主による事前の書面説明が欠かせません(同法38条)。説明をしないと、更新がない旨の定めは無効になります。
  • 使用貸借は、家賃を取らずに貸す契約で、借地借家法の対象ではありません(民法593条以下)。どの契約でも、売る予定があるなら、貸す前に3,000万円控除の要件を確かめます。

公開 /更新 /執筆・編集:実家の手引き 編集部(運営者情報)

更新日:2026年(令和8年)10月25日。条文は、同日にe-Gov法令検索で確認した時点のものです。

空き家を貸す契約には、どんな種類がありますか?

空き家を貸す契約は、家賃を取る賃貸借の普通借家と定期借家、家賃を取らない使用貸借の3種類に整理できます。借地借家法は建物の賃貸借の更新や効力を定める法律で(同法1条)、使用貸借には民法の定めだけが働きます。

普通借家とは、期間が来ても、通知がなければ従前と同じ条件で更新される建物賃貸借です(借地借家法26条1項)。定期借家(定期建物賃貸借)とは、更新がないと定めた、期間の満了で終わる建物賃貸借です(同法38条1項)。使用貸借とは、借主が無償で使用・収益し、契約が終わったら返す契約です(民法593条)。

空き家を貸す3つの契約の比較
項目 普通借家 定期借家 使用貸借
家賃 取る(民法601条) 取る 取らない(無償)
適用される法律 民法と借地借家法 民法と借地借家法(38条の特則) 民法593条以下。借地借家法の対象外
契約期間 1年未満は「期間の定めがない」とみなす(借地借家法29条1項) 1年未満も定められる(同法38条1項) 定めても定めなくてもよい(民法597条)
更新 通知がなければ従前と同じ条件で更新。以後は期間の定めなし(借地借家法26条1項) なし。期間の満了で終了 期間の満了で終了(民法597条1項)
貸主から終わらせる 更新拒絶も解約の申入れも、正当の事由が必要(借地借家法28条) 期間の満了で終わる。1年以上の契約は終了の通知が要る(同法38条6項) 期間・目的を決めていなければ、いつでも解除できる(民法598条2項)
修繕・費用 貸主に修繕の義務がある(民法606条) 同じ 借主が通常の必要費を負担する(民法595条1項)
借主からの中途解約 契約の定めによる 居住用で200㎡未満は、やむを得ない事情があれば1か月で解約を申し入れられる(借地借家法38条7項) いつでも解除できる(民法598条3項)
家賃の増減の請求 できる(借地借家法32条) 家賃の改定の特約があれば、32条は適用されない(同法38条9項) 家賃がない

家賃の水準や手残りは、空き家を貸す収支シミュレーションで計算できます。事業者に借り上げてもらう方法は、借上げ3方式の比較表にまとめました。

普通借家で貸すと、いつ返してもらえますか?

普通借家で貸すと、貸主の都合だけでは返してもらえません。更新を断る通知も解約の申入れも、貸主と借主が家を使う必要、これまでの経緯、建物の状況、立退料などの申出を考慮して、正当の事由が認められる場合でなければできないためです(借地借家法28条)。

期間を決めた普通借家では、期間の満了の1年前から6か月前までに更新しない旨の通知をしないと、従前と同じ条件で更新されます。更新後は、期間の定めがない契約になります(同法26条1項)。期間を決めない普通借家の解約は、申入れから6か月で終わりますが、ここでも正当の事由が必要です(同法27条・28条)。

借主に不利な特約は無効です(同法30条)。契約書に「期間が来たら必ず退去」と書くだけでは、更新はなくなりません。更新をなくすには、定期借家にします。

契約ごとの、貸主が家を取り戻す方法と時期
契約 貸主が終わらせる方法 時期
普通借家(期間あり) 満了の1年前〜6か月前に更新拒絶の通知。正当の事由が必要 通知の期間を過ぎると、同じ条件で更新される(借地借家法26条)
普通借家(期間なし) 解約の申入れ。正当の事由が必要 申入れから6か月(同法27条)
定期借家 期間の満了。1年以上の契約は、満了の1年前〜6か月前に終了の通知 満了日。通知が遅れると、通知から6か月は終了を主張できない(同法38条6項)
使用貸借 期間の満了、目的に足りる期間の経過後の解除、または期間・目的がなければいつでも解除 契約の定めによる(民法597条・598条)

定期借家とは何で、契約には何が必要ですか?

定期借家とは、期間を定めた建物の賃貸借で、公正証書などの書面で契約するときに限り、更新がないと定められる契約です(借地借家法38条1項)。国土交通省は、契約で定めた期間が満了すると、更新されずに契約が終わる制度と説明しています。

契約に必要なことは、次の5つです。

  • 期間を定める。
  • 公正証書などの書面で契約する。電磁的記録による契約も、書面とみなされる(同条1項・2項)。
  • 契約の前に、貸主が借主に、更新がなく期間の満了で終わることを、書面を交付して説明する(同条3項)。
  • 説明をしなかったときは、更新がない旨の定めは無効になる(同条5項)。
  • 期間が1年以上なら、満了の1年前から6か月前までに終了の通知を出す(同条6項)。

令和4年5月18日から、事前説明と契約を電磁的方法で行えます。 事前説明の書面は、借主の承諾を得れば、電子メールなどの電磁的方法でも提供できます(同条4項)。契約も電磁的記録で結べます(同条2項)。法務省の資料では、電磁的方法として、電子メールの送信、アップロードしたファイルのダウンロード、USBメモリなどの媒体の交付が挙げられています。手順は、貸主が方法の種類と内容(PDFなど)を示し、借主が書面または電磁的方法で承諾する形です。説明は、対面でもオンラインでも行えます(法務省)。

定期借家の事前説明では、何を確かめますか?

事前説明とは、定期借家を結ぶ前に、貸主が借主に、更新がなく期間の満了で終わることを書面で説明することです(借地借家法38条3項)。次の表の項目を、契約の前に一つずつ確かめます。

定期借家の事前説明と契約で確かめる項目
確かめる項目 内容 根拠
説明する中身 契約に更新がないこと、期間の満了で賃貸借が終わること。国土交通省は、契約終了年月日なども書くとよいとしている 借地借家法38条3項、国土交通省Q&A
説明の時期 契約を結ぶ前(あらかじめ) 借地借家法38条3項
説明する人 貸主。宅地建物取引業者の重要事項説明は、貸主自身の事前説明の代わりにならない。仲介者が貸主の代理で事前説明をすることはできる 国土交通省Q&A
渡し方 書面の交付。または、借主の承諾を得た電磁的方法 借地借家法38条3項・4項、法務省
記録 説明した日と相手、渡した書面を残す。国土交通省は、説明の記録を残すよう勧めている 国土交通省Q&A
契約の方法 公正証書などの書面、または電磁的記録 借地借家法38条1項・2項
終了の通知 期間が1年以上なら、満了の1年前〜6か月前に通知。遅れると、通知から6か月は終了を主張できない 借地借家法38条6項、国土交通省Q&A
借主の中途解約 居住用で200㎡未満は、転勤・療養・親族の介護などのやむを得ない事情があれば、借主は1か月で解約できる。借主に不利な特約は無効 借地借家法38条7項・8項
家賃の改定 家賃の改定の特約があれば、借賃の増減請求(32条)は適用されない 借地借家法38条9項
再契約 更新はない。続けるなら、合意して再契約する。ひな形は国土交通省の「定期賃貸住宅標準契約書」 国土交通省

この記事は、契約書や説明書面の文案を載せていません。個別の契約は弁護士や宅地建物取引業者に確認してください。

見本の日付(実在の契約ではありません)。 期間が2027年4月1日から2030年3月31日までの定期借家なら、貸主は2029年3月ごろから9月ごろまでの間に、終了の通知を出します。

使用貸借(無償で貸す)は、どんな契約ですか?

使用貸借とは、借主が貸主から物を受け取り、無償で使用・収益し、契約が終わったときに返す契約です(民法593条)。家賃を取らないため、借地借家法の更新や正当の事由の規定は働きません。

使用貸借の主な決まり
項目 内容 根拠
終了 期間を定めれば満了で終わる。期間がなく目的を定めたときは、借主が目的に従い使い終えたとき 民法597条1項・2項
借主の死亡 借主が亡くなると終了する 民法597条3項
貸主からの解除 目的を定めた場合は、目的に足りる期間が過ぎたとき。期間も目的も定めなかった場合は、いつでも 民法598条1項・2項
借主からの解除 いつでもできる 民法598条3項
費用 借主が通常の必要費を負担する 民法595条1項

使用貸借でも、貸している間の管理は続きます。火災保険は空き家の火災保険、見回りは管理チェックリストを読んでください。

貸すと、3,000万円控除はどうなりますか?

相続した家を貸すと、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(3,000万円控除)の要件を満たさなくなるおそれがあります。要件の一つが、相続の時から譲渡の時まで、事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないことだからです(国税庁 No.3306)。

売る期限は、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までで、かつ制度の対象は2027年(令和9年)12月31日までの売却です。売る可能性があるなら、契約を選ぶ前に、判定ツールで要件を確かめます。

無償で貸す使用貸借が「貸付けの用」に当たるかは、国税庁の同ページに書かれていません。貸す前に、税務署や税理士に確かめてください。個別の適用の判断は、税務署・税理士の領域です。

名義が親のままなら、貸す前に相続登記を済ませます。共有の家は、共有者との取決めを先に確かめます。

あなたの空き家には、どの契約が向きますか?

どの契約が向くかは、家を返してもらう時期、売る予定、家賃を取るかで変わります。下の表は、状況ごとに確かめる契約の目安です。

状況ごとに確かめる契約の目安
あなたの状況 確かめる契約 理由
数年後に自分や家族が住む、または売る予定がある。期間を確実に終えたい 定期借家 期間の満了で終わる。事前説明と書面が要る
長く貸して家賃を安定させたい。返してもらう予定がない 普通借家 貸主から終わらせるには正当の事由が要る
家賃を取らず、親族に一時的に使ってもらう 使用貸借 無償。期間と目的を決めておく。借主の死亡で終わる
3,000万円控除を使う予定がある 貸さない 「貸付けの用に供されていない」ことが要件
傷みが大きい、借り手が見えない 貸す以外の出口 売る・解体する・国庫帰属を比べる
事業者に借り上げてもらいたい 借上げ(サブリース) 借上げ3方式の比較表を読む

貸す前の家財の片付けは、姉妹サイトのふれあいの丘(運営:株式会社Kogera)が手順を扱っています。物件が新潟県にある場合は、姉妹サイトの新潟 実家じまいナビ(運営:株式会社Kogera)が県内の情報をまとめています。

貸す方針が決まり、事業者に借り上げてもらう案も比べたいときは、提案を依頼できる窓口があります。物件や地域によっては対象外になります。近く売ると決めている人、貸した後に自分が住む予定がある人、家賃の見直しで収入が減る可能性を受け入れにくい人には向きません。申込みの前に、各社の案内で条件を読んでください。

この記事で使える計算ツール

ご自分の数字で、記事の内容を計算できます。入力した数字は、どこにも送信しません。

よくある質問

空き家を貸すなら、定期借家と普通借家のどちらがよいですか?

返してもらう時期を確実にしたいなら定期借家です。普通借家は更新を断るのに正当の事由が要ります(借地借家法28条)。ただし、定期借家は事前説明と書面が要り、欠けると更新がない旨の定めは無効です(同法38条)。

定期借家の事前説明は、メールでもよいですか?

借主の承諾があれば、電子メールなどの電磁的方法でも提供できます(借地借家法38条4項)。2022年(令和4年)5月18日に施行されました。承諾の前に、貸主が方法の種類と内容を示します。

家賃を取らない使用貸借なら、いつでも返してもらえますか?

期間も目的も定めなかったときは、貸主はいつでも解除できます(民法598条2項)。期間か目的を定めたときは、期間の満了や、目的に足りる期間の経過が必要です。

貸すと、3,000万円控除は使えなくなりますか?

要件に「貸付けの用に供されていたことがない」があり、貸すと満たさなくなるおそれがあります(国税庁 No.3306)。無償の貸付けの扱いは同ページにないため、税務署・税理士に確認してください。

この記事の根拠

  1. 借地借家法(平成3年法律第90号)1条・26条・27条・28条・29条・30条・32条・38条(e-Gov法令検索)(確認日 )
  2. 民法(明治29年法律第89号)593条・594条・595条・597条・598条・601条・606条・617条(e-Gov法令検索)(確認日 )
  3. 国土交通省「定期建物賃貸借」(確認日 )
  4. 国土交通省「定期建物賃貸借Q&A」(確認日 )
  5. 国土交通省「定期賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)(確認日 )
  6. 法務省「借地借家法等の改正(定期借地権・定期建物賃貸借関係)」(施行日 令和4年5月18日)(確認日 )
  7. 法務省「借地借家法の改正の概要(定期建物賃貸借の事前説明書面・契約の電磁的方法)」(確認日 )
  8. 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(確認日 )

最終更新:2026年10月25日。制度の内容は、2026年10月25日に確認した条文と公表資料の時点です。

  • 借地借家法・民法(e-Gov法令検索)
  • 国土交通省の定期建物賃貸借の案内・Q&A・標準契約書、法務省の借地借家法改正(令和4年5月18日施行)の資料
  • 国税庁 No.3306

この記事は一般的な情報です。個別の契約は弁護士・宅地建物取引業者に、税額は税務署・税理士にご確認ください。