第4章 実行|買取・訳あり
借地権を相続したら:売る・返す・地主との話し方
借地権は相続では地主の承諾は不要と解されますが、第三者に売るには承諾が必要です。承諾が得られなければ、借地借家法19条で裁判所の許可を求められます。
- 借地権を相続しただけでは、地主の承諾や名義書換料は不要と解されています。ただし、建物の名義を相続人に直し、地主に知らせておきます。
- 借地権を第三者に売るには、地主の承諾が必要です。地主が承諾しないときは、借地人が裁判所に承諾に代わる許可を求められます(借地借家法19条)。
- 地主に買い取ってもらう、底地と同時に売る、専門の会社に売るなど、選べる道があります。あなたのケースは診断で確かめてください。
借地権とは何で、契約の種類で何が違いますか?
借地権とは、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権です(借地借家法2条1号)。契約の種類によって、存続期間や更新の有無が違い、売る・返すときの進め方も変わります。
| 種類 | 存続期間・更新 | 根拠 |
|---|---|---|
| 普通借地権 | 存続期間は30年以上。契約で長く定めればその期間。更新がある | 借地借家法3条 |
| 定期借地権 | 存続期間50年以上。更新や建物築造による延長がない。建物買取請求をしない旨を特約で定められる(書面による) | 同法22条 |
| 事業用の定期借地権等 | 専ら事業用の建物が対象(居住用を除く)。30年以上50年未満、または10年以上30年未満。公正証書が必要 | 同法23条 |
| 建物譲渡特約付借地権 | 設定後30年以上たった日に、建物を地主に相当の対価で譲渡する旨を定める | 同法24条 |
| 旧借地法の借地権 | 借地借家法(平成4年〈1992年〉8月1日施行)の施行前に設定された借地権の更新などは、従前の例による | 同法附則5条〜7条、東京地裁の案内 |
自分の借地権がどの種類かは、借地契約書で確認します。契約書が見つからないときは、地主や、地代の領収書、建物の登記で手がかりを探します。
借地権は、土地そのものではなく土地を使う権利です。売る価格は、土地の価格とは別に決まります。
借地権を相続したら、地主の承諾や名義書換料は必要ですか?
借地権を相続しただけで、地主の承諾や名義書換料は不要と解されています。相続による承継は、賃借権の譲渡(民法612条)にあたらないという理解です。ただし、建物の名義の変更と、地主への連絡はしておきます。
この点を直接定めた条文は見当たらず、法律事務所の解説(二次情報)による理解です。契約書に特約がないかは確認します。
相続後にやることは次のとおりです。
- 建物の相続登記をする。相続による取得を知った日から3年以内に申請する義務があります(不動産登記法76条の2)。
- 地代を払い続け、払込みの名義の変更を地主に連絡する。連絡は法的義務ではないとされますが、将来の更新や建替えの交渉でのトラブルを防ぐためです。
- 借地契約書、更新の記録、地代の領収書をそろえる。
- 相続人が複数なら、誰が借地権を引き継ぐかを遺産分割で決める。
借地権は、その登記がなくても、借地上に借地権者が登記されている建物があれば、第三者に対抗できます(借地借家法10条1項)。建物の登記名義を相続人に直すことは、この点でも大切です。
相続登記の期限は期限カレンダーで出せます。
借地権を売るとき、地主の承諾は必要ですか?承諾しないとどうなりますか?
借地権が土地の賃借権のときは、第三者に売るのに地主の承諾が必要です(民法612条1項)。地主が承諾しない場合は、借地人が裁判所に、承諾に代わる許可を求められます(借地借家法19条)。
承諾なしに賃借権を譲渡すると、地主は契約を解除できます(民法612条2項)。
借地借家法19条1項は、借地人の申立てで、裁判所が承諾に代わる許可を与えられると定めています。条件は、第三者が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないのに、地主が承諾しないことです。このとき、裁判所は、借地条件の変更を命じたり、許可を財産上の給付にかからせたりできます。
流れは次のとおりです。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 申立て | 借地権者が、裁判所に賃借権譲渡許可を申し立てる | 借地借家法19条1項 |
| 審理 | 審問期日、書面の交換、鑑定委員会の意見聴取(特に不要な場合を除く) | 同条6項、東京地裁の案内 |
| 地主の介入 | 裁判所の定める期間内に、地主が自ら建物と賃借権の譲渡を受ける旨を申し立てると、裁判所が相当の対価を定めて命じられる | 同条3項 |
| 決定・抗告 | 決定に不服があれば抗告する | 東京地裁の案内 |
東京地方裁判所は、借地非訟事件を6種類に分けて案内しています。借地条件変更、増改築許可、更新後の建物再築許可、土地の賃借権譲渡または転貸の許可、競売・公売に伴う賃借権譲受許可、借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立ての6種類です。
借地非訟の申立ては、借地の所在地を管轄する地方裁判所に行い、代理人は弁護士に限られます。申立手数料は収入印紙で納め、借地権が設定された土地の価格(固定資産税評価額)を基礎に計算されます(民事訴訟費用等に関する法律3条1項、別表第一13項)。具体額は土地ごとに違うため、申立先の裁判所に確認します。第1回の審問期日は申立てからおおむね1か月〜1か月半後に指定され、全体の標準的な審理期間は、東京地裁の案内に書かれていません。決定に不服があるときは、決定書が届いた日から2週間以内に即時抗告できます。
第三者が建物を取得して地主が賃借権の譲渡を承諾しないときは、その第三者が地主に建物を時価で買い取るよう請求できる規定もあります(借地借家法14条)。
譲渡承諾料は、法律で額が定められていません。三井のリハウスは「一般的に借地権価格の10%程度とされている」と記載していますが、根拠データは示されていません。譲渡承諾料の相場を示す公的な統計はないため、この記事では相場として採用しません。実際の額は、地主との交渉で決まります。裁判所の許可では、財産上の給付が条件になることがあります(借地借家法19条1項)。
借地権を売る・返す方法には、何がありますか?
方法は、地主に買い取ってもらう、地主と底地を一緒に第三者へ売る、地主の承諾を得て第三者へ売る、裁判所の許可を得て売る、契約を終えて返す、などです。契約の種類と地主の態度で選びます。
| 方法 | 向くケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 地主に売る(返す) | 地主が買い戻す意思を示している。承諾料の交渉を避けたい | 価格は交渉。建物の扱い(地主が買う・更地で返す)を決める |
| 借地権と底地を同時に売る | 地主も売りたい。第三者に一体で売りたい | 地主の協力が必要。代金の配分を決める |
| 地主の承諾を得て第三者に売る | 地主が承諾の意思を示している | 承諾料の額と支払い時期を決める。承諾を条件にした売買契約にする例がある(三井のリハウスの記載) |
| 借地非訟で許可を得て売る | 地主が承諾しない | 申立てから決定まで時間と費用がかかる。地主が介入することもある |
| 契約を終えて返す | 使う予定がない。地主と合意できる | 更地にして返す義務の範囲は契約書で確認 |
| 持ち続ける | 当面使う、費用負担が小さい | 地代が続く。保有コスト |
契約を終えるときの原状回復の考え方は、契約書の条項が基本です。民法622条は、借主が附属させた物を収去する義務(599条1項)を、賃貸借に準用しています。更新されない普通借地権では、借地人が建物を時価で買い取るよう地主に請求できます(借地借家法13条)。
定期借地権は、買取請求をしない旨を特約で定められるため(借地借家法22条)、期間満了時に更地で返すことが前提になる場合があります。契約書で確認します。
借地権を売ったとき、税金はどうなりますか?
借地権の売却益も、土地の上に存する権利の譲渡として譲渡所得の対象です。空き家の3,000万円控除は、条文上は土地の上に存する権利を含みますが、借地権の売却で使えるかは、個別の事情で変わるため、税務署・税理士で確認します。
税率と所有期間の考え方は、土地建物の売却と同じです。長期(被相続人の取得日から数えて、売った年の1月1日時点で所有期間が5年超)の税率は、所得税15%+復興特別所得税(所得税額の2.1%)+住民税5%で、合計20.315%です(国税庁 No.3208)。仲介手数料や測量費などは譲渡費用になります(国税庁 No.3202)。
空き家の3,000万円控除について、租税特別措置法35条3項は、被相続人居住用家屋の敷地等を「土地又は当該土地の上に存する権利」と定めています。借地権が含まれるかは、条文の言葉からは読めます。ただし、昭和56年5月31日以前の建築、被相続人の一人暮らしなどの要件を満たす必要があります。
譲渡承諾料を支払った場合に、譲渡費用に含められるかは、税務署・税理士に確認してください。控除の詳しい要件は3,000万円控除の記事と判定ツールで確認できます。
専門の買取会社に頼んでよいのは、どんなときですか?
地主との交渉が難しい、遠方にある、建物が古い、時間がないといった場合に、借地権を扱う専門の会社に相談する価値があります。地主が買い取る意思を示している場合は、先に地主に打診します。
| 向く人・ケース | 向かない人・ケース |
|---|---|
| 地主との関係が悪く、自分で交渉できない | 地主が買い取る意思を示しており、条件が合う |
| 遠方で、承諾や売買の手続きを自分で進められない | 時間に余裕があり、地主と話し合いで進められる |
| 建物が古い・未登記など、一般の買い手が付きにくい | できるだけ高く売ることを優先したい |
| 3,000万円控除などの期限が近い | 売るかどうか、家族の意見が決まっていない |
専門会社に頼む場合の確認点は次のとおりです。
- 地主との承諾の交渉を誰がするか、費用は誰が負担するか。
- 売買契約が、地主の承諾を条件にしているか(承諾が得られなければ契約が成立しない形か)。
- 買取価格に承諾料や解体費がどう反映されているか。
- 複数社の見積りを比べたか。1社の見積りだけで決めない。
借地権の売買は、地主の態度に結果が左右されます。業者の査定額も、承諾が得られる見込みで変わります。
相続した借地権付きの家で、共有名義の場合は共有名義の売り方も読んでください。
あなたのケースでは、借地権をどうしますか?
まず契約書で借地権の種類を確かめ、地主の意向を探り、売るか返すかを決めます。地主が協力的なら地主に先に打診し、難しければ専門会社の見積りを取ります。
| あなたの状況 | 目安 |
|---|---|
| 相続したばかりで、何も決まっていない | 建物の相続登記をし、地主に連絡。契約書を確認 |
| 地主が買い取る意思を示している | 地主への売却を先に検討 |
| 地主が承諾を渋っている | 借地非訟の可否を弁護士に相談。専門会社の見積りも取る |
| 定期借地権で、期間満了が近い | 契約書で返還の条件を確認 |
| 売るか返すか決められない | 地代と固定資産税の負担を計算(保有コスト) |
借地権や底地の売却を扱う不動産会社への無料の一括問い合わせ窓口があります。地主との交渉を自分で進められる人や、地主への売却で足りる人には向きません。申込み前に、各社の案内を読んでください。
この記事で使える計算ツール
計算ツールは、本文の後に置く追加機能です。ツールが動かない環境でも、本文の説明と表の計算例だけで内容を読めます。
よくある質問
借地権を相続したら、地主に承諾料を払う必要がありますか?
相続による承継は賃借権の譲渡にあたらず、承諾料は不要と解されています。法律事務所の解説による理解で、契約書に特約がないかは確認します。
借地権を売るとき、地主の承諾がなければ売れませんか?
土地の賃借権の場合、地主の承諾が必要です(民法612条)。承諾が得られないときは、借地借家法19条で裁判所に承諾に代わる許可を求められます。
譲渡承諾料はいくらですか?
法律で額は定められておらず、公的な統計もありません。記載する事業者はありますが、根拠データは示されていません。実際の額は地主との交渉や裁判所の判断で決まります。
借地権と底地を同時に売るとは、どういうことですか?
借地人と地主が協力して、借地権と底地(地主の持つ土地の所有権)を合わせて第三者に売る方法です。地主の協力が必要で、代金の配分を決めます。
借地権の相続で、相続登記は必要ですか?
借地上の建物の相続登記が必要です。相続による取得を知った日から3年以内の申請義務があります(不動産登記法76条の2)。
この記事の根拠
- 借地借家法(e-Gov法令検索)2条・3条・10条・13条・14条・19条・22条〜24条、附則5〜7条(確認日 )
- 民法(e-Gov法令検索)612条 賃借権の譲渡及び転貸の制限、622条・599条 収去義務(確認日 )
- 租税特別措置法(e-Gov法令検索)35条3項 被相続人居住用家屋の敷地等(土地又は土地の上に存する権利)(確認日 )
- 東京地方裁判所民事第22部「借地非訟事件」(事件の種類と手続の流れの見出し)(確認日 )
- 東京地方裁判所民事第22部「第1 借地非訟とは」(平成4年8月1日以降に設定された借地権に関する注記)(確認日 )
- 東京地方裁判所民事第22部「第2 借地非訟事件手続の流れ」(申立先、審問期日の目安、鑑定委員会、即時抗告2週間)(確認日 )
- 東京地方裁判所民事第22部「第3 費用」(申立手数料の根拠は民事訴訟費用等に関する法律3条1項・別表第一13項、算定の基礎は土地の価格)(確認日 )
- 弁護士法人みずほ中央法律事務所「借地権を相続した場合」(公開2013-11-28。二次情報:相続は譲渡でなく承諾不要との解説)(確認日 )
- 三井のリハウス「借地権は売れるのか?」(譲渡承諾料の記載。更新2026-08-08の表示)(確認日 )
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(確認日 )
- 国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしくみ(確認日 )
- 不動産登記法76条の2(相続登記の申請義務)(確認日 )
最終更新:2026年10月17日。制度の内容は2026年10月時点の公表情報です。
- 借地借家法2条・3条・10条・13条・14条・19条・22条〜24条、附則5〜7条、民法612条・622条・599条、租税特別措置法35条3項(e-Gov法令検索、2026年10月17日確認)
- 東京地方裁判所民事第22部「借地非訟事件」(2026年10月17日確認)
- 弁護士法人みずほ中央法律事務所「借地権を相続した場合」(公開2013年11月28日。二次情報、2026年10月17日確認)
- 三井のリハウス「借地権は売れるのか?」(更新2026年8月8日の表示、2026年10月17日確認)
- 国税庁 No.3306・3208・3202、不動産登記法76条の2(2026年10月16日確認)
この記事は一般的な情報です。個別の契約や地主との交渉、税額は、弁護士・税理士にご確認ください。