第4章 実行|買取・訳あり

地主が借地権の売却を承諾しないとき:借地非訟の手順・書類・費用

地主が借地権の売却を承諾しないときは、借地人が地方裁判所に承諾に代わる許可を申し立てられます(借地借家法19条)。買い手が決まっていることが前提です。

  • 借地権が土地の賃借権のとき、地主の承諾なしに売ると、地主は契約を解除できます(民法612条)。承諾が出ない場合の道が、裁判所の許可を求める借地非訟です(借地借家法19条)。
  • 許可の条件は、買い手が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがないことです。申立てには買い手の特定が要り、東京地方裁判所の案内では、多くの事件が概ね1年以内に終わっています。
  • 印紙代は、借地の固定資産評価額から計算できます。見本では、評価額2,000万円で2万円です。承諾料の額は法律に定めがなく、あなたのケースは診断で確かめてください。

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承諾料の額そのものは借地権の承諾料・更新料の計算式と早見表で、売る・返す方法の全体は借地権を相続したらで扱っています。この記事は、承諾が出ないときの裁判所の手続だけを詳しく書きます。

地主が借地権の売却を承諾しないとき、借地人にできることは何ですか?

借地人は、借地の所在地の地方裁判所に、承諾に代わる許可を申し立てられます。借地借家法19条1項の制度で、借地非訟(しゃくちひしょう)と呼ばれます。借地権が土地の賃借権であることが前提です。

借地非訟とは、地主と借地人の間で協議が調わないとき、裁判所が地主の承諾に代わる許可などを決める手続です(東京地方裁判所の案内)。東京地方裁判所は、借地非訟事件を次の6種類に分けています。このうち、借地権を売るときに使うのは4番目です。

地主が借地権の売却を承諾しないとき、借地人にできることは何ですか?
種類 根拠
借地条件変更 借地借家法17条1項
増改築許可 同条2項
更新後の建物再築許可 同法18条1項
土地の賃借権譲渡または転貸の許可 同法19条1項
競売・公売に伴う土地賃借権譲受許可 同法20条1項
借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立て(地主の介入権) 同法19条3項、20条2項

承諾が要る理由は、民法612条です。賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡せず、承諾なしに第三者に使わせると、賃貸人は契約を解除できます(同条1項・2項)。

借地権が地上権のときは、民法612条の対象ではありません。自分の借地権が賃借権か地上権かは、契約書と登記で確かめます。

裁判所の許可が出る条件は何ですか?

条件は、買い手が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないのに、地主が承諾しないことです(借地借家法19条1項)。裁判所は、残存期間、これまでの経過、譲渡を必要とする事情など、一切の事情を考慮します(同条2項)。

許可の見込みは、事情によって変わります。公的な統計は確認できていません。この記事では「許可が出やすい」「出にくい」とは書きません。見込みは弁護士に確かめてください。

裁判所は、許可を出すときに条件を付けられます。条文が認めているのは次の2つです(借地借家法19条1項)。

  • 賃借権の譲渡を条件とする借地条件の変更を命じること。
  • 許可を財産上の給付にかからせること。

財産上の給付とは、借地人(申立人)が地主に払うよう命じられる金銭のことで、一般に「名義変更料」などと呼ばれます(東京地方裁判所の案内)。額は法律に定めがありません。裁判所は、原則として鑑定委員会の意見を聴いて判断します。この記事では、割合の数字は書きません。理由は承諾料の記事に書いています。

申立てから決定まで、どんな流れで進みますか?

申立書を出すと、裁判所が第1回の審問期日を決めます。その後、当事者の主張を聴き、鑑定委員会の意見を得て、決定が出ます。東京地方裁判所の案内では、多くの事件が概ね1年以内に終わっています。

以下は、東京地方裁判所民事第22部の案内にもとづく流れです(2026年10月30日確認、令和8年3月5日改訂の表示)。

申立てから決定まで、どんな流れで進みますか?
段階 内容 日数の目安(東京地裁の案内)
1. 申立て 借地権者が、申立書を裁判所に出す —
2. 第1回審問期日 裁判官が当事者から意見を聴く。審問は非公開 申立てから概ね1か月〜1か月半後
3. 書面の交換 申立書、答弁書、準備書面、証拠。相手方に送られる 必要に応じて
4. 鑑定委員会 弁護士、不動産鑑定士、有識者から3人以上。現地を調べ、意見書を出す。費用は国が負担 現地調査は審問期日から約1か月半後
5. 意見書への意見聴取 当事者が、意見書について意見を述べる 意見書提出から1か月〜1か月半程度
6. 決定 裁判所が決定書を作り、当事者に送る —
7. 即時抗告 不服があれば、高等裁判所に判断を求める 決定書を受け取った日から2週間以内

途中で、裁判所が和解を勧めることがあります。また、調停で解決を図ることもできます。申立人は、原則としていつでも申立てを取り下げられ、相手方の同意は要りません(ただし、地主の介入権が認められたあとは別です。後述)。

申立先は、借地の所在地を管轄する地方裁判所です(借地借家法41条)。当事者の合意があれば、簡易裁判所に申し立てることもできます。東京地方裁判所民事第22部は、東京23区と島しょ部の借地を扱い、多摩地区の借地は立川支部が扱います。

東京以外の裁判所は、日数の目安や書式が違うことがあります。申立先の裁判所の窓口で確認してください。

申立てには、何が必要ですか?

必要なのは、申立書の正本と副本、土地と建物の固定資産評価証明書、土地と建物の全部事項証明書、公図の写し、現場の住宅地図、買い手の住民票または資格証明書、借地契約書などです。買い手が決まっていることも必要です。申立書に、買い手を特定する資料を付けるためです。

東京地方裁判所の案内と書式(土地賃借権譲渡・土地転貸許可申立書)から、必要なものをまとめます。

申立てには、何が必要ですか?
書類 内容・入手先
申立書 正本1通と、相手方の人数分の副本
土地固定資産評価証明書(原本) 申立手数料の算出に使う。借地の所在地の都税事務所など
建物固定資産評価証明書(原本) 建物の現況や評価額の確認に使う
現場の住宅地図 借地の場所を示す
賃貸借契約書など 証拠資料。持っていれば必ず提出するもの
委任状 弁護士に頼むとき
資格証明書 当事者が法人のとき
土地・建物の全部事項証明書(原本、3か月以内) 書式で「必ず証拠書類として提出する」とされているもの。登記名義人が亡くなっているときは、出生から死亡までの戸籍謄本一式や相続人の戸籍謄本・住民票なども求められる
公図の写し(原本、3か月以内) 同上
買い手の住民票(個人)または資格証明書(法人)(原本、3か月以内) 同上。買い手の資力を示す資料(個人は源泉徴収票・確定申告書など、法人は決算書など)も付けるよう案内されている

申立書の書式には、次の項目を書く欄があります。事前に整理しておくと、準備が進みます。

  • 当事者(借地権者、地主、買い手)と、契約の種類(普通借地権、定期借地権など)。
  • 最初に契約した日、借地条件、存続期間、更新の経過、残る期間。
  • 現存する建物と、その使い方。
  • 地代の推移、地主からの増額請求の有無、敷金・更新料などの支払状況。
  • 建物の譲渡契約の内容(売買など)と、所有権を移す時期。
  • 譲渡が地主に不利となるおそれがない理由。譲渡を必要とする事情と、買い手の職業・資力など。
  • 地主との協議の経過。
  • 地主に払う財産上の給付についての意見と希望、地代の希望。
  • 申立ての前5年以内の、同じ借地を対象にした借地非訟事件や賃料増減額請求事件の有無。

借地人本人でも申し立てられます。書式に「本人」の欄があります。ただし、申立てを代理人に頼む場合、代理人は弁護士に限られます(借地借家法44条1項。簡易裁判所では、許可を得て弁護士でない者を代理人にできます)。

相続した借地権では、申立人が誰になるかが問題になります。書式の記入の注意には、賃借人が複数のときは原則として全員が当事者になる必要がある、とあります。ただし、相続人が複数で遺産分割が済んでいないときに、誰がどう申し立てるかは、裁判所の案内に具体的な記載がありません。弁護士に相談してください。建物の相続登記の期限は借地権を相続したらに書いています。

費用はいくらかかりますか?

裁判所に払う費用は、収入印紙の申立手数料と、予納する郵便切手です。切手は、相手方1名で6,000円です。印紙代は、借地の固定資産評価額から計算します。弁護士費用は、公的な相場がないため、この記事に数字は書きません。

東京地方裁判所の案内による、印紙代の計算の手順は次のとおりです(土地の賃借権譲渡の申立て)。

  1. 借地の土地固定資産評価証明書で、固定資産評価額を確認する。
  2. 評価額を2分の1にする(平成6年4月1日から当分の間の軽減措置)。借地が土地の一部のときは、全体に対する借地部分の面積の割合も掛ける。
  3. 出た金額に、民事訴訟費用等に関する法律の別表第一13項の表を当てはめる。

表の部分は、次のとおりです。

費用はいくらかかりますか?
手数料の基礎になる額 手数料
100万円までの部分 10万円までごとに400円
100万円を超え500万円までの部分 20万円までごとに400円
500万円を超え1,000万円までの部分 50万円までごとに800円
1,000万円を超え10億円までの部分 100万円までごとに1,200円

見本の数字で計算すると、次のようになります。端数が出ない金額を選んでいます。

モデルケース(見本の数字)。実在の事例ではありません。

土地の固定資産評価額と印紙代の見本(借地が土地の全部、借地権の譲渡許可の申立て)
固定資産評価額 基礎になる額(2分の1) 印紙代
1,000万円 500万円 12,000円(100万円分4,000円+400万円分8,000円)
2,000万円 1,000万円 20,000円(上の12,000円+500万円分8,000円)
3,000万円 1,500万円 26,000円(上の20,000円+500万円分6,000円)

端数が出るときの数え方は、この記事では確かめていません。裁判所の手数料早見表で確かめてください。裁判所は、収入印紙を申立書に貼らずに来庁し、窓口で点検を受けるよう案内しています。

印紙代と切手のほかに、固定資産評価証明書の発行手数料や、弁護士に頼む場合の費用がかかります。承諾に代わる許可に財産上の給付が付いたときは、その額も必要です。鑑定委員の費用は、国が負担します。当事者に費用はかかりません。

地主が「自分で買う」と言い出したら、どうなりますか?

裁判所が定めた期間内に、地主が自分で建物と賃借権の譲渡を受けると申し立てると、裁判所は相当の対価を定めて、それを命じられます(借地借家法19条3項)。これを介入権と呼びます。使われると、予定していた買い手ではなく、地主が買う形になります。

東京地方裁判所の案内では、介入権の申立てがあると、原則として地主が裁判所の定めた価格で建物と賃借権を買い受けます。対価は、鑑定委員会の意見を聴いて決まります。

注意する点は2つです。

  • 介入権を認める裁判があった後は、申立人も地主も、相手方との書面での合意がなければ、申立てを取り下げられません(借地借家法19条5項)。
  • 地主の申立ては、借地人が申立てを取り下げたとき、または申立てが不適法として却下されたときは、効力を失います(同条4項)。

つまり、申立ての前に「地主に売るのでも構わないか」を決めておく必要があります。地主に売る方法は借地権を地主に売る・底地と同時に売るで扱っています。

許可が出る前に、売買契約を結んでもよいですか?

許可の前に、引渡しや名義の変更までしてはいけません。承諾なしに借地権を渡すと、地主は契約を解除できるためです(民法612条2項)。裁判例には解除が制限された例もありますが、それを当てにして進めないでください。契約を結ぶ場合は、許可を前提にした書き方にします。

東京地方裁判所の申立書の書式には、所有権を移す時期として「許可の裁判が確定した時(後)」を選ぶ欄があります。許可が出る前に権利を移さない契約にする、という考え方です。条項の書き方は、契約ごとに違います。弁護士や司法書士に確認してください。

買い手側の道もあります。第三者が借地上の建物を取得して、地主が賃借権の譲渡を承諾しないときは、その第三者が地主に建物を時価で買い取るよう請求できます(借地借家法14条)。買い手が建物を先に取得した場合の規定です。

借地非訟に向く人、向かない人は誰ですか?

向くのは、買い手が決まっていて、地主が売却に応じない人です。向かないのは、時間と費用を避けたい人や、地主が買い取る意思を示している人です。

借地非訟に向く人、向かない人は誰ですか?
向く人・ケース 向かない人・ケース
買い手が決まっているのに、地主が承諾も理由の説明もしない 買い手が決まっていない(申立書に買い手の特定が必要)
地主の提示する承諾料の根拠が分からず、合意できない 地主が買い取る意思を示しており、条件が合う
時間をかけても、第三者に売る道を残したい 1年近くかかり得る手続を避けたい
弁護士に頼む費用を負担できる 相続人どうしで、誰が借地権を引き継ぐか決まっていない

申立てに進む前に、地主への売却、底地との同時売却、専門会社の買取も比べます。地主と話し合いで進められる人は、先に話し合いをするほうが、早く済む場合があります。

あなたのケースでは、何から始めますか?

まず契約書で借地権の種類(賃借権か、地上権か)を確かめ、買い手の候補を決めます。そのうえで、地主への打診、弁護士への相談、申立ての順に進めます。

あなたのケースでは、何から始めますか?
あなたの状況 目安
相続したばかりで、売るかどうか決まっていない 建物の相続登記と、契約書の確認。借地権を相続したら
買い手が決まり、地主が承諾しない 承諾料の根拠を書面で確認。合意できなければ弁護士に申立てを相談
地主が「買い取る」と言っている 地主に売る方法を先に比べる
古い建物で、建替えや更新の話が出ている 建替えの承諾と建物買取請求権
買い手が見つからない 専門会社の見積りも取る

首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の借地権付きの家は借地権の買取を扱う会社、東京都の借地権付きの家は訳あり物件の買取を扱う会社が、無料の査定の窓口です。対象の地域や物件は会社ごとに違い、住宅ローンが残っている家は対象外です。地主との交渉を自分で進められる人や、地主に売る方向で話が進んでいる人には向きません。申込み前に、各社の案内を読んでください。

よくある質問

地主が借地権の売却を承諾しないとき、売ることはできませんか?

借地権が土地の賃借権なら、承諾なしに売ると地主は契約を解除できます(民法612条)。承諾が出ないときは、裁判所に承諾に代わる許可を申し立てられます(借地借家法19条)。

借地非訟はどの裁判所に申し立てますか?

借地の所在地を管轄する地方裁判所です(借地借家法41条)。当事者の合意があれば、簡易裁判所に申し立てることもできます。

借地非訟は、どのくらいの期間がかかりますか?

東京地方裁判所の案内では、多くの事件が特段の事情がなければ概ね1年以内に終わっています。第1回の審問期日は、申立てから概ね1か月〜1か月半後です。他の裁判所は、申立先に確認してください。

借地非訟の申立てには、いくらかかりますか?

収入印紙の申立手数料と、郵便切手(東京地裁で相手方1名なら6,000円)がかかります。印紙代は、固定資産評価額の2分の1を基礎に計算します。評価額2,000万円なら、見本の計算で2万円です。弁護士費用は別です。

地主が承諾料を求めてきたら、払う必要がありますか?

承諾料の額を定める法律はありません。合意できないときは、裁判所が許可と一緒に、財産上の給付を条件にできます(借地借家法19条1項)。額の根拠は、地主に書面で示してもらいます。

この記事の根拠

  1. 借地借家法(e-Gov法令検索)14条・19条・41条・44条(確認日 )
  2. 民法(e-Gov法令検索)612条 賃借権の譲渡及び転貸の制限(確認日 )
  3. 民事訴訟費用等に関する法律(e-Gov法令検索)別表第一 13項(借地借家法41条の事件の申立ての手数料)(確認日 )
  4. 東京地方裁判所民事第22部「借地非訟事件について」(令和8年3月5日改訂の表示)(確認日 )
  5. 同「第1 借地非訟とは」(事件の6種類、手続のあらまし、多くの事件は概ね1年以内)(確認日 )
  6. 同「第2 借地非訟事件手続の流れ」(管轄、提出書面、審問期日の目安、鑑定委員会、取下げ、即時抗告2週間)(確認日 )
  7. 同「第3 費用」(申立手数料の算定方法、郵便切手6,000円)(確認日 )
  8. 同「借地非訟事件(書式例)」(確認日 )
  9. 同 土地賃借権譲渡・土地転貸許可申立書の書式(PDF)(確認日 )

最終更新:2026年10月30日。制度の内容は2026年10月時点の法令と、東京地方裁判所の公表資料です。

  • 借地借家法14条・19条・41条・44条、民法612条、民事訴訟費用等に関する法律別表第一13項(e-Gov法令検索、2026年10月30日確認)
  • 東京地方裁判所民事第22部「借地非訟事件について」第1〜第3、書式例、土地賃借権譲渡・土地転貸許可申立書の書式(2026年10月30日確認)

この記事は一般的な情報です。個別の契約や手続、費用は、弁護士・司法書士にご確認ください。