第4章 実行|買取・訳あり
相続した農地を売る・手放す:農地法の許可と届出
相続で農地を取得したら、農地法3条の3により農業委員会への届出が必要です。売るには3条許可か転用の許可・届出が要り、困れば農地バンクや国庫帰属があります。
- 農地を相続したら、農地の所在地の農業委員会へ届け出ます(農地法3条の3)。農林水産省のチラシは、相続発生日からおおむね10か月以内としています。届け出ないと、10万円以下の過料の対象になります(農地法69条)。
- 農地のまま売るには、農業委員会の許可(3条許可)が必要で、買い手は農業をする人に限られます。宅地などに転用して売るには、都道府県知事等の許可(5条)か、市街化区域では農業委員会への届出が要ります。
- 売れない農地は、農地バンクに貸す、国庫帰属を申請する、の順に考えます。農地だけを相続放棄で手放すことはできません。あなたのケースは診断で確かめてください。
農地を相続したら、まず何をしなければなりませんか?
農地を相続したら、農地の所在地の市町村にある農業委員会へ、権利を取得した旨の届出をします。根拠は農地法3条の3です。相続登記とは別の手続きで、どちらも必要です(農林水産省のチラシ)。
農地法3条の3は、許可を受けて取得した場合などを除き、農地の権利を取得した人は遅滞なく農業委員会に届け出ると定めています。相続は許可が不要なので、届出の対象です。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 届出が要る人 | 相続、遺産分割、包括遺贈などで農地の権利を取得した人 | 農林水産省のチラシ |
| 届出先 | 農地の所在する市町村の農業委員会 | 農地法3条の3 |
| 期限 | 条文は「遅滞なく」。農林水産省のチラシは「相続発生日からおおむね10か月以内」 | 農地法3条の3、農林水産省 |
| 届け出ないと | 10万円以下の過料(届出をせず、または虚偽の届出をした場合) | 農地法69条 |
| 書くこと | 氏名・住所、農地の所在・地番・面積、取得の事由と取得日、権利の種類、国籍等 | 農地法施行規則19条 |
| 相続登記 | 相続を知った日から3年以内に申請。別の手続き | 不動産登記法76条の2、農林水産省 |
起算点は資料で違い、農林水産省のチラシは「相続発生日から」、千葉市の案内は「権利の取得を知った日から」です。管轄の農業委員会へ確認してください。
農業をしない人にも届出は必要です。管理できないときは、農業委員会が管理の相談や借り手探しを手伝います(農林水産省のチラシ)。
遺産分割が終わっていない間の届出の扱いは、公表資料では確認できていません。誰がいつ届け出るかは、農業委員会に確認してください。
相続登記の手続きや、亡くなった後の一般的な手続きは、姉妹サイトのふれあいの丘(運営:株式会社Kogera)で扱っています。
農地のまま売るには、どんな許可が必要で、誰に売れますか?
農地のまま売るには、農業委員会の許可(農地法3条許可)が必要です。許可を受けない売買は、効力が生じません(農地法3条6項)。買い手は、農地を効率的に使って農業をする人に限られます。
3条許可は、当事者が農業委員会に申請し、農業委員会が許可を出す仕組みです(農地法3条1項、農林水産省)。許可は、次のいずれかに当たると出せません(農地法3条2項)。
| 許可が出せない場合 | 内容 |
|---|---|
| 全部効率利用の要件を満たさない | 買主が、取得後に耕作する農地の全部を効率的に利用して農業を行うと認められない |
| 常時従事の要件を満たさない | 買主(農地所有適格法人を除く)やその世帯員等が、農作業に常時従事すると認められない |
| 地域との調和に支障がある | 農地の集団化、農作業の効率化など、周辺の農地の利用の確保に支障を生ずるおそれがある |
以前あった下限面積の要件は、現行の農地法3条2項にありません。自治体は、2023年(令和5年)4月1日に廃止されたと案内しています。
売れる相手は、近隣の農家、新しく農業を始める人、農地所有適格法人などです。公的な価格の相場は確認できていないため、数字は書きません。
許可の処理期間と手数料は、農業委員会ごとに異なります。全国共通の数字は、公表資料では確認できていません。農業委員会に確認してください。
売ったあとの税金は、土地の譲渡所得です。税率は、所有期間が5年を超える長期で20.315%、5年以下の短期で39.63%です(相続した農地は亡くなった方の取得日を引き継ぎます)。空き家の3,000万円控除は、被相続人が住んでいた家屋とその敷地の特例です。農地だけを売る場合は使えません(租税特別措置法35条3項、国税庁 No.3306)。
相続税の納税猶予を受けている農地は、猶予が農業の継続などを前提とします(国税庁 No.4147)。売る前に税務署へ確認してください。
宅地などに転用して売るには、どうなりますか?
宅地などに転用して売るには、買い手が転用する前提で、都道府県知事等の許可(農地法5条)を受けます。市街化区域の中の農地は、許可ではなく農業委員会への届出で足ります(同条1項6号)。農地の区分によっては、原則として許可が出ません。
農地を自分で別の用途に変えるのは4条、転用のために売買や貸借をするのは5条です。売る場合は5条が基本です。
| 農地の区分 | 許可の方針 |
|---|---|
| 農用地区域内の農地 | 原則として許可しない。農用地区域の指定用途に供する場合などは例外 |
| 甲種農地、第1種農地 | 原則として許可しない。農業用施設など、例外の許可がある |
| 第2種農地 | 第3種農地などに立地できない場合に許可 |
| 第3種農地(市街地の農地など) | 原則として許可 |
| 市街化区域内の農地 | 許可は不要。農業委員会への届出で転用できる |
出典:農林水産省「農地転用許可制度の概要」、農地法4条1項7号・5条1項6号・5条2項。
許可の審査では、転用の目的が確実に実現できるか、周辺の農地に被害が出ないかなどが見られます(農地法5条2項)。
農林水産省は、具体的な転用目的がない、投機目的や資産保有目的の農地の取得を認めない方針です。5条の許可は、売主と買主が当事者として受けます(条文は「当事者が……許可を受けなければならない」)。
転用して売る場合、売主が決めるのは、買い手と転用の計画です。農地のままの売却と同じく、許可がないと売買の効力は生じません(農地法5条3項、3条6項)。
自分の農地が、農用地区域内か、市街化区域内か、どの区分かは、農業委員会で確認できます。
農地バンクに貸す、という選択肢はありますか?
あります。農地中間管理機構(農地バンク)は、所有者から農地を借り受け、農業をする人に貸し付ける仕組みです(農林水産省)。所有権は移らないため、手放したことにはなりません。
農地バンクは、都道府県知事が県内に1つ指定する法人です。地域によって名称が違います。農林水産省のページは、自分で借り手を探さずに貸し付ける方法として、農地バンクを挙げています。
貸すと、所有権と固定資産税の負担は所有者に残ります。農地をもう持ちたくない人には向きません。借り手がつかない農地は、受け入れられない場合もあります。機構の受け入れ基準は、公表資料では確認できていません。機構ごとに異なるため、農地バンクに確認してください。
農地バンクに貸した農地は、国庫帰属を申請できません。農林水産省のページは、農地バンクの中間管理権が設定されている農地を、申請できない土地の例に挙げています。貸したあとで手放したくなったときは、機構や農業委員会に確認します。
持ち続けるコストは空き家を持ち続けるコスト、土地活用の考え方は土地活用は「やらない」も選択肢を参照してください。
売れない農地は、国庫帰属で手放せますか?費用はいくらですか?
農地も、相続土地国庫帰属制度を申請できます(法務省Q&A)。審査手数料は1筆14,000円です。負担金は、農用地区域内などの農地は面積で算定され、それ以外の農地は原則20万円です。
相続土地国庫帰属制度とは、相続等により取得した土地を、一定の要件で国に引き取ってもらう制度です(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律、法務省)。制度の要件と手順は国庫帰属の記事にまとめています。ここでは農地に関わる点だけを書きます。
農地で申請できない、または承認されない例は次のとおりです。
| 農地で問題になる点 | 扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 農地バンクの中間管理権が設定されている | 申請できない | 農林水産省 |
| 土地改良区などの賦課金が課されている | 金額にかかわらず引き取れない。賦課金の債務を審査の完了前に消滅させれば、引き取れる可能性がある | 法務省Q&A(8-Q20〜Q24) |
| 通常の管理を阻害する耕作物や樹木がある | 承認されない場合がある | 国庫帰属法5条1項2号、農林水産省 |
農地の負担金のうち、面積で算定されるのは、市街化区域内、農用地区域内、土地改良事業等の施行区域内にある農地です(施行令5条1項2号)。それ以外の農地は一律20万円です。
モデルケース(見本の数字)。実在の事例ではありません。 施行令5条の式で計算します。実際の金額は、登記記録の地積と土地の種目で決まります。
| 農地の例 | 計算 | 負担金 | 審査手数料を足した総額 |
|---|---|---|---|
| 農用地区域内の農地 300㎡ | 300×850+298,000 | 553,000円 | 567,000円 |
| 農用地区域内の農地 1,200㎡ | 1,200×740+388,000 | 1,276,000円 | 1,290,000円 |
| 農用地区域外・土地改良事業等の施行区域外の農地 600㎡ | 面積式の対象外 | 200,000円 | 214,000円 |
同じ600㎡でも、農用地区域内なら804,000円(600×810+318,000)、区域外なら20万円です。負担金は、面積よりも、農地がどの区域にあるかで大きく変わります。
法務省の統計(令和8年8月31日時点、速報値)では、申請5,997件のうち田畑が2,335件(約39%)でした。帰属3,119件のうち、農用地は989件です(2026年10月16日確認)。
農地は、農業委員会が権利調整を行っているため、申請前に農業委員会へ相談することもできます(法務省Q&A)。要件を事前に確かめるには、国庫帰属の要件チェックを使えます。
相続放棄で、農地だけ手放せますか?
農地だけを相続放棄で手放すことはできません。相続放棄をした人は、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。農地以外の預貯金や不動産も、すべて相続できなくなります。
相続放棄の期限は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です(民法915条)。農地の届出の「おおむね10か月」より、はるかに早く切れます。
放棄の時に農地を現に占有している人は、引き渡すまで保存する義務を負います(民法940条1項)。
| 手放す方法 | 対象 | 費用 | 期限 | 他の財産への影響 |
|---|---|---|---|---|
| 農地を売る(3条・5条) | 農地1筆ずつ | 売却にかかる費用。許可の手数料は、公表資料では確認できていません。農業委員会に確認してください。 | なし。ただし届出は早めに | なし |
| 国庫帰属 | 農地1筆ずつ | 手数料14,000円+負担金(20万円〜) | 申請に期限はない。審査は標準で8か月 | なし |
| 相続放棄 | 相続財産のすべて | 収入印紙800円と郵便切手(裁判所ごとに異なる) | 知った時から3か月以内 | 全財産を相続できなくなる |
相続放棄と国庫帰属の違いは、相続放棄と国庫帰属の違いで詳しく扱っています。
あなたのケースでは、どの方法にしますか?
まず届出を済ませ、そのうえで、農地の区分と買い手の見込みで選びます。1つの方法だけで決めず、農業委員会に先に相談します。
| あなたの状況 | 目安 |
|---|---|
| 近くに農業をする親戚や農家がいる | 農地のまま売る(3条許可)、または貸す |
| 市街化区域内の農地で、買い手がいる | 農業委員会への届出で転用して売れる。買い手の用途を確かめる |
| 農用地区域内で、買い手が見つからない | 農地バンクに貸す。手放したいなら国庫帰属の費用を計算 |
| 土地改良区の賦課金が課されている | 賦課金の整理が先。国庫帰属は賦課金があると引き取れない |
| 農地以外にも財産があり、農地だけがいらない | 売る、貸す、国庫帰属を比べる。相続放棄は他の財産も失う |
| 相続してから10か月に近づいている | まず届出。期限は期限カレンダーで確認 |
向かない方法もあります。農地のまま売る方法は、買い手を自分で探せない人に向きません。国庫帰属は、境界が確認できない農地や、賦課金が残る農地に向きません。
農地が付いた実家や、農地以外に買い手のつきにくい不動産がある場合に、訳あり不動産の買取査定を申し込める窓口があります。農地そのものは、農地法の許可が必要なため、買取の対象外になる場合があります。申込み前に、各社の案内を読んでください。
この記事で使える計算ツール
計算ツールは、本文の後に置く追加機能です。ツールが動かない環境でも、本文の説明と表の計算例だけで内容を読めます。
よくある質問
農地を相続したら、届出は必ず必要ですか?
必要です。農地の所在地の農業委員会に届け出ます(農地法3条の3)。農業をしない人も対象で、届け出ないと10万円以下の過料の対象です(同法69条)。農林水産省のチラシは、相続発生日からおおむね10か月以内としています。
農業をしない私が、相続した農地を売れますか?
売れる場合があります。ただし、農地のままなら買い手は農業をする人に限られ、農業委員会の許可が必要です。転用して売る場合は、都道府県知事等の許可か、市街化区域の届出が要ります。
農地は、国庫帰属で引き取ってもらえますか?
要件を満たせば申請できます。審査手数料は1筆14,000円です。負担金は、農用地区域内などの農地は面積で算定され、それ以外は原則20万円です。賦課金がある農地は引き取れません。
相続放棄をすれば、農地の管理から解放されますか?
農地だけの放棄はできず、全財産が対象です。放棄の時に農地を現に占有していた場合は、引き渡すまで保存する義務が残ります(民法940条1項)。
この記事の根拠
- 農林水産省 農地相続ポータル(届出先、登記、貸す・売る、転用、税、国庫帰属)(確認日 )
- 農林水産省 相続時の届出チラシ(届出の対象者・届出先・相続発生日からおおむね10か月・10万円以下の過料)(確認日 )
- 農林水産省 農地法第3条許可の流れ(PDF。許可を受けていない売買等は無効)(確認日 )
- 農林水産省 農地転用許可制度の概要(PDF。農地区分ごとの許可の方針)(確認日 )
- 農林水産省 農地中間管理機構(農地バンク)(確認日 )
- 農地法(e-Gov法令検索)3条・3条の3・4条・5条・69条(確認日 )
- 農地法施行規則(e-Gov法令検索)18条・19条(届出を要しない場合、届出の記載事項)(確認日 )
- 千葉市「相続等で農地の権利を取得したときの届出(農地法第3条の3)」(権利の取得を知った日からおおむね10カ月以内)(確認日 )
- 法務省 相続土地国庫帰属制度に関するQ&A(農地・土地改良区の賦課金・農地バンクの権利)(確認日 )
- 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令(e-Gov法令検索)5条(負担金の面積算定)(確認日 )
- 法務省 相続土地国庫帰属制度の統計(令和8年8月31日現在)(確認日 )
- 民法(e-Gov法令検索)915条・939条・940条(確認日 )
- 国税庁 No.4147 農地等についての相続税の納税猶予及び免除の特例(確認日 )
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(確認日 )
最終更新:2026年10月17日。制度の数字は2026年10月時点の公表情報です。
- 農地法3条・3条の3・4条・5条・69条、農地法施行規則18条・19条(e-Gov法令検索、2026年10月17日確認)
- 農林水産省「農地相続ポータル」、相続時の届出チラシ、農地法第3条許可の流れ、農地転用許可制度の概要、農地中間管理機構(2026年10月17日確認)
- 千葉市「相続等で農地の権利を取得したときの届出(農地法第3条の3)」(2026年10月17日確認)
- 法務省 相続土地国庫帰属制度のQ&A(2026年10月17日確認)、同統計(令和8年8月31日現在)、国庫帰属法施行令5条(2026年10月16日確認)
- 民法915条・939条・940条(e-Gov法令検索、2026年10月17日確認)
- 国税庁 No.4147、No.3306(2026年10月17日確認)
この記事は一般的な情報です。個別の事案の判断や、法律・税務の相談に代わるものではありません。農地の区分や許可の見込みは、農業委員会にご確認ください。