第1章 予兆|最初にやること
親が施設に入って実家が空き家に:売る・貸す・待つの判断
親が施設に入った実家は、親の意思が確かなうちなら親自身が売主となり、住まなくなって3年目の年末まで居住用財産の3,000万円控除を使えます。
- 実家の売主は、所有者である親です。親に意思能力があるうちは売れますが、意思能力がないときの契約は無効です(民法3条の2)。
- 親が売るなら居住用財産の3,000万円控除(住まなくなってから3年目の年末まで)、亡くなった後なら空き家特例(2027年12月31日までの売却)です。使える制度と期限が違います。
- 売らずに待つ間も、固定資産税と管理費は続き、3年の期限も進みます。あなたのケースは判定ツールで確かめてください。
親が施設に入ると、実家の何が変わり、誰が決められますか?
実家の名義は、親が施設に入っても変わりません。売る・貸す・待つを決める権利は、所有者の親にあります。子には、親の同意なしに売る権限はありません。
親が施設に入った時点で変わるのは、3点です。居住用財産の3,000万円控除の期限(住まなくなった日から数える)が動き出すこと、固定資産税や管理費が住まなくても続くこと、親の判断能力が下がると親自身が契約できなくなることです。3つ目は取り返しがつきにくく、その後の手順は認知症の親の家を売る方法で扱っています。
名義が亡くなった祖父母のままなら、先に相続登記が必要です。2024年(令和6年)4月1日より前の相続は、2027年(令和9年)3月31日までです(不動産登記法76条の2、法務省)。
親が元気なうちに売るとき、売主は誰で、何が必要ですか?
売主は、所有者である親です。子が代わりに売るには親の代理権が必要で、代理権がないまま子が契約すると、親が追認しない限り、親に効力は生じません。
| 場面 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 親が自分で契約する | 民法3条の2 | 契約した時に意思能力がなければ、その法律行為は無効 |
| 子が代理で契約する | 民法99条・643条 | 代理人が権限内で本人のためにした意思表示は、本人に直接効力が生じる。代理権は委任で与える |
| 代理権なく子が契約する | 民法113条 | 本人が追認しなければ、本人に効力が生じない |
売る前に、次の3点を確かめます。
- 名義が親だけか、配偶者や兄弟との共有か(登記事項証明書で確認)。共有なら、全体を売るには共有者全員の同意が原則です(民法251条)。
- 抵当権が残っていないか。残っていれば、売却前に抹消します。
- 買主が、子や配偶者などの親族ではないか。親族等の特別の関係がある人への売却は、3,000万円控除の対象外です(国税庁No.3302)。
売却代金は、売主である親の財産です。施設の費用に充てる場合も、使い道は親の意向と家族の合意で決めます。片付けや生前整理は、姉妹サイトのふれあいの丘(運営:株式会社Kogera)が詳しく扱っています。
親が売ると、税金はどうなりますか?
親が自宅を売るときは、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば、譲渡所得から最高3,000万円を差し引けます(租税特別措置法35条、国税庁No.3302・No.3314)。所有期間の長短は問われません。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 対象の家屋 | 現に住んでいる家屋、または以前住んでいた家屋 |
| 以前住んでいた家屋の期限 | 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで |
| 売却先 | 親子・夫婦・生計を一にする親族・同居する親族などの特別の関係がある人は対象外 |
モデルケース(見本の数字)。実在の事例ではありません。
条件:取得費不明(概算取得費5%)、所有期間5年超、1,200万円で売る。仲介手数料は上限額(税込46.2万円)、印紙税1万円。条件は売却のハブと同じです。
| 項目 | 控除なし | 3,000万円控除あり |
|---|---|---|
| 譲渡所得 | 1,092.8万円 | 0円(3,000万円を引くと負の額になるため) |
| 譲渡所得税(実効20.315%) | 222.0万円 | 0円 |
住まなくなった日を老人ホームの入所日と見るか、入所後に家財の保管などに使った場合にどう扱うかは、国税庁No.3302・No.3314に書かれていません。起算日の考え方は、税務署に確認してください。
税額や特例の可否は、個別の事情で変わります。最終判断は税理士・税務署へ。
亡くなった後に売るのと比べると、どちらが有利ですか?
どちらが有利かは、売る時期、家の建築年、相続人の人数で変わります。親が売る居住用財産の特例に建築年の要件はなく、亡くなった後の空き家特例には建築年と売却期限の制限があります。
| 比べる点 | 親が存命中に売る(居住用財産・No.3302) | 亡くなった後に相続人が売る(空き家特例・No.3306) |
|---|---|---|
| 売主 | 親本人 | 家屋と敷地を相続した相続人 |
| 家屋の条件 | 建築年の要件なし | 1981年(昭和56年)5月31日以前の建築で、区分所有でない。売却代金は1億円以下 |
| 控除額 | 最高3,000万円 | 最高3,000万円。相続人が3人以上なら、2024年(令和6年)1月1日以後の売却は1人2,000万円まで |
| 売却の期限 | 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで。かつ2027年(令和9年)12月31日まで |
| 売るまでの使い方 | No.3302に制限の記載なし。貸した後の扱いは税務署に確認 | 相続の時から売るまで、事業・貸付け・居住に使っていない |
| 取得費加算 | 該当なし | 併用できず、どちらかを選ぶ |
空き家特例は、制度自体が2027年12月31日までの売却に限られます。2026年10月17日時点で、延長は決まっていません。国土交通省は令和9年度税制改正要望(令和8年8月)で、2031年(令和13年)12月31日までの4年延長を求めています。
期限の組み合わせを、3つの日付例で示します(本サイトの計算によるモデルケース)。
| ケース | 親が売る場合の期限 | 亡くなった後に売る場合の期限 |
|---|---|---|
| A:2026年11月に施設に入所し、住まなくなった | 2029年12月31日 | 存命のため該当しない |
| B:2027年3月に亡くなった | 該当しない | 2027年12月31日(相続開始から3年目の年末は2030年だが、制度の期限が先) |
| C:2028年6月に亡くなった | 該当しない | 現行の売却期限(2027年12月31日)が過ぎている。延長が決まらなければ対象外 |
現行制度のままなら、2028年以降に相続した家は空き家特例を使えません。親が存命のうちに売る居住用財産の特例には、2027年12月31日のような終了日がありません。
亡くなった後の売却には、要介護認定または要支援認定を受けた親が老人ホームなどに入所していた場合の特例があります(国税庁No.3307)。入所後は相続開始直前まで、物品の保管などに使い、事業用・貸付用・親以外の居住用にしていないことが要件で、家屋の要件は入所直前の状態で判定します。期限の全体像は空き家を相続したら最初にやることにあります。
貸す場合は、何を考えますか?
貸す場合は、貸主が親になること、賃料が親の収入になること、貸した後の税の特例に注意が要ることの3点を先に確かめます。
- 契約の相手は親です。 子が代わりに結ぶには、委任(民法643条)が必要です。
- 普通借家か定期借家かで、戻ってくるかが変わります。 普通借家は、貸主からの更新拒絶や解約の申入れに正当な事由が必要です(借地借家法28条)。更新がない定期建物賃貸借は、書面で契約し、事前に書面で説明すれば結べます(同法38条)。
- 賃料は不動産所得です。 総収入から、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などの必要経費を引きます(国税庁No.1370)。
- 相続後の空き家特例は、貸付けをすると使えません(国税庁No.3306)。貸した後に親が売る場合の扱いは、No.3302・No.3314に書かれていないため、税務署に確認してください。
賃料の参考値は、総務省の令和5年住宅・土地統計調査で、民営借家(木造)の1か月あたり家賃54,409円です。全国の借家の平均で、築年数や地域の差は反映されていません。リフォーム費と空室率は公的な数値がなく、金額を書きません。収支は貸す・土地活用で扱っています。
貸すことに向かない人は、控除を使って売りたい人、短期間で整理したい人、遠方から管理できない人です。
空き家のまま待つと、いくらかかりますか?
待つ場合の固定資産税は、住宅用地の特例が続く間は小さく、勧告で特例が外れると大きく増えます。維持管理費は、国土交通省の調査で、年5万円未満が47.8%です。
モデルケース(見本の数字)。実在の事例ではありません。
条件:土地の評価額1,000万円(200㎡以下の小規模住宅用地)、建物の評価額200万円。固定資産税の標準税率1.4%。都市計画税は含めません。
| 項目 | 特例が続く場合 | 勧告で特例が外れた場合(本則の水準) |
|---|---|---|
| 土地(1,000万円) | 2.3万円(課税標準が6分の1) | 14.0万円 |
| 建物(200万円) | 2.8万円 | 2.8万円 |
| 年の合計 | 5.1万円 | 16.8万円 |
| 10年の合計 | 約51万円 | 約168万円 |
根拠:地方税法349条の3の2・350条。空家法13条2項の勧告を受けた管理不全空家等の敷地は、住宅用地の特例の対象外です。実際の課税標準は、市町村の平均の負担水準(価格の60%〜70%程度)でみなされ、特例が外れた最初の年にほぼ一気に上がります(地方税法附則18条の3)。右の列は本則の価格で計算した上限の目安です。自分の評価額での試算は保有コスト計算でできます。
維持管理費は、国土交通省「空き家所有者実態調査」(令和6年版、全国の空き家)で、5万円未満の合計が47.8%、5〜10万円が15.6%、10万円以上の合計が33.7%でした。税金などを含むため、上の固定資産税と足し算しません。火災保険の条件や保険料の公的な数値はなく、契約中の保険会社に確認します。
待つ間に、3,000万円控除の期限が進み、親の判断能力が下がれば親自身が売れなくなる点も、待つコストです。全体像は持ち続けるコストとリスクにあります。待つことが向くのは、家族の誰かが近く住む予定がある場合や、話し合いを先に整えたい場合です。
あなたのケースでは、売る・貸す・待つのどれにしますか?家族で何を、どの順に話しますか?
親の意思と判断能力を最初に確かめ、次に名義と事実、費用、家族の合意、期限の順に進めます。順番を誤ると、親の判断能力が下がった後に、選べる手続きが狭まります。
- 親の意向を聞く。 家を残したいか、売ってもよいか、施設の費用をどうまかなうか。判断能力に不安があれば、医師やケアマネジャーに早めに相談します。
- 事実を集める。 登記事項証明書(名義・共有・抵当権)、納税通知書、建築年、住まなくなった日、要介護認定の有無。
- 数字を出す。 売る場合は判定ツールと手取り計算、待つ場合は保有コスト計算。
- きょうだい・将来の相続人で方針をそろえる。 反対する共有者や相続人がいると、後で売れなくなります。
- 期限から逆算する。 期限カレンダーで、親が売る場合と亡くなった後の期限を出す。
- 実行する。 売る場合は、査定と媒介契約に進みます。会社の選び方は不動産会社の選び方にあります。
| あなたの状況 | 目安 |
|---|---|
| 親の意思がはっきりしており、売ることに合意している | 親が売る前提で、住まなくなってから3年目の年末を逆算 |
| 親の判断能力に不安が出てきた | 早めに認知症の親の家を売る方法を確認 |
| 家屋が1981年5月31日以前の建築で、相続後に売る見込み | 空き家特例(2027年12月31日までの売却)の期限を確認 |
売る方向が固まり、親に売る意思と判断能力があることを確かめたうえで、複数の不動産会社の査定額と根拠を比べたい人向けに、無料の一括問い合わせ窓口があります。提携先の条件はサービスごとに異なるため、申込み前に各社の案内を読んでください。売るかどうか親が決めていない人、共有者の同意が取れていない人、家に住む予定がある人には向きません。
この記事で使える計算ツール
計算ツールは、本文の後に置く追加機能です。ツールが動かない環境でも、本文の説明と表の計算例だけで内容を読めます。
よくある質問
親が施設に入ったら、実家は売れますか?
親に意思能力があれば、売主の親が売れます。子が代わりに売るには、親からの代理権が必要です(民法99条・113条)。
親が生きているうちに売ると、3,000万円控除は使えますか?
要件を満たせば使えます。以前住んでいた家屋は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があります(国税庁No.3302)。
親が亡くなってから売るほうが得ですか?
一概には言えません。空き家特例は1981年5月31日以前の建築などの要件があり、2027年12月31日までの売却に限られます。要件は上の比較表のとおりです。
売らずに貸してもよいですか?
貸すことはできます。売る可能性があるなら、更新がない定期建物賃貸借を検討できます(借地借家法38条)。貸した後の税の特例の扱いは、税務署に確認します。
この記事の根拠
- 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例(令和8年4月1日現在法令等)(確認日 )
- 国税庁 No.3314 過去に居住していたマイホームを売ったとき(令和8年4月1日現在法令等)(確認日 )
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(確認日 )
- 国税庁 No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋(確認日 )
- 国税庁 No.1370 不動産所得(令和8年4月1日現在法令等)(確認日 )
- 民法(e-Gov法令検索)3条の2・99条・113条・251条・643条(確認日 )
- 空家等対策の推進に関する特別措置法(e-Gov法令検索)13条(確認日 )
- 借地借家法(e-Gov法令検索)28条・38条(確認日 )
- 地方税法(e-Gov法令検索)349条の3の2・350条(確認日 )
- 国土交通省:空き家所有者実態調査(令和6年版)図表4-74(確認日 )
- 総務省統計局 令和5年住宅・土地統計調査 結果の概要(民営借家(木造)の家賃)(確認日 )
- 国土交通省 令和9年度税制改正要望事項(令和8年8月)(確認日 )
- 不動産登記法76条の2、法務省:相続登記の申請義務化に関するQ&A(確認日 )
最終更新:2026年10月17日。制度の数字は2026年10月時点の公表情報です。
- 国税庁 No.3302・No.3314・No.3306・No.3307・No.1370(令和8年4月1日現在法令等、2026年10月17日確認)
- 民法3条の2・99条・113条・251条・643条、空家法13条2項、借地借家法28条・38条(e-Gov法令検索、2026年10月17日確認)
- 地方税法349条の3の2・350条、国土交通省「空き家所有者実態調査」令和6年版、総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」(2026年10月16〜17日確認)
- 国土交通省 令和9年度税制改正要望、不動産登記法76条の2(2026年10月17日確認)
モデルケースの数字は本サイトの計算による見本です。この記事は一般的な情報です。個別の税務相談や、不動産取引・法律上の判断に代わるものではありません。最終判断は、税理士・税務署・弁護士などの専門家にご確認ください。